―― プレートの境界に立つ島 ――
台湾の山を地図で見ると、島の中心に一本の線が走っている。
中央山脈と呼ばれるその線は、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの衝突が作り出したものだ。
ユーラシアプレートは厚く重い。
フィリピン海プレートは北西方向へ時速にすれば数センチという速度で突き進んでいる。
二つは逃げ場を持たず、正面からぶつかり続けている。
その力の行き場が上方向にしかなかった結果、台湾の山々は盛り上がった。
玉山(3,952m)が富士山(3,776m)より高いのは、火山活動ではなく、
この「圧縮」の力によって海底が押し上げられたためである。
山頂付近から貝の化石が見つかるのは、その証拠のひとつだ。
富士山との違いについて
日本人にとって山を語るとき、富士山の形はひとつの基準になる。
あれはマグマが積み重なってできた建設型の山だ。
一方で玉山は、プレートの圧縮で絞り出された山である。
堆積ではなく変形によってできた地形は、滑らかではなく、
岩の層が斜めに押し上げられるような褶曲をともなう。
富士山とは成り立ちが違うため、外見の印象も大きく異なる。
日本には標高3000メートルを超える山は20座ほどしかないが、
台湾には200座以上存在すると言われる。
島の大きさに対して、この密度は不釣り合いで、
地殻の力がどれほど集中しているかを示している。
山が若いということ
台湾の山脈は地質学的には若い。
隆起が始まったのは数百万年前で、侵食が進み切っていない。
山頂が尖っているのはそのためだ。
雨は急峻な斜面を一気に下り、深いV字谷をつくる。
侵食と隆起が同時に起きているため、
形が整う前にまた押し上げられていく。
地図で中央山脈を眺めると、
背骨のように島を縦断している。
その線は、衝突が続いている場所そのものだ。
山がもたらした食文化のこと
ここからは山が日常へ与えた影響の話になる。
標高の高い山が雨を受け止めることで、台湾の水資源は安定している。
大量の降水が急流となって流れ、嘉南平原などの農地を潤す。
標高差が大きいため、気候帯も数段階に分かれる。
平地では熱帯の果物が育ち、
標高を上げれば温帯の果物や野菜が並ぶ。
さらに高い場所では、高山茶の産地が広がる。
南国でありながら、梨や桃が収穫できるのは、
この「縦方向の気候変化」があるからだ。
台湾の料理が豊かになった背景には、
山がもたらした多様な環境が関係している。
今も動き続ける島
台湾は今も年間数ミリから数センチの速度で隆起を続けている。
同時に侵食も進むが、圧縮の力は止まらない。
この島は静止しているように見えて、
地殻の動きの中に常に置かれている。
台湾新幹線の車窓から見る山並みは、
単なる風景ではなく、
二つのプレートが押し合う記録そのものだ。
玉山や中央山脈の高さは、
地球の内部で起きている圧力の結果であり、
それが生活や食文化へと静かに影響を与えている。
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