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台湾の多様な植生についての記録

台湾を特徴づけるのは、地形の“急さ”である。
海岸から玉山の山頂まで、水平距離にしてわずか数十キロ。
その短い距離のあいだに、熱帯から寒帯にまで至る気候帯が、縦に重ねられている。

島を歩くというより、地球の緯度を上下に移動しているような感覚になる。
赤道付近の森から北欧の針葉樹林まで、すべてが一本の山道の途中に存在している。

標高が決める「緑」のグラデーション

台湾の道を車で登ると、窓の外の世界が数分ごとに変わっていく。

0〜500m(熱帯・亜熱帯)
ガジュマル、クスノキ、ビンロウ椰子。
湿度が高く、葉は濃い緑で茂り、海風と雨に満ちた世界だ。

500〜1,800m(暖温帯)
カシやシイが支配する照葉樹林帯。
日本の西日本に似た森で、霧が出ると輪郭がぼやける。

1,800〜2,500m(冷温帯)
霧林帯(クラウドフォレスト)。
タイワンヒノキの巨木が湿気を吸い込むように立ち並び、地面には厚い苔が覆う。
台湾でもっとも神秘的な森といえる。

2,500m以上(亜寒帯・寒帯)
ツガ、トウヒ。
やがて森林限界を越えると、背の低い高山植物が風に揺れるだけになる。
山の高さが、植物の種類をほとんど一方的に決定してしまう場所だ。

この縦方向の切り替わりが、多様な動植物を包み込む“層”をつくっている。

マンゴーが甘くなる理由

植生の切り替わりは、果物の味にも影響する。
台南や屏東で育つ愛文マンゴー(アップルマンゴー)が甘いのは、気温だけでは説明できない。

南部の熱帯気候は強烈な日差しをもたらし、斜面は余分な水分をすぐに排水する。
乾季に水が不足すると、マンゴーの木は生存本能を働かせ、果実に養分を集中させる。

過酷な環境が、一番おいしい部分を作っている。
台湾の果物は“恵み”というより、むしろ“戦略”の産物に近い。

標高がつくる、四季の代わり

台湾の市場から果物が消えない理由のひとつは、この垂直分布にある。
平地が真夏でも、山の上には冷涼な環境がある。

高山ではリンゴ、梨、モモ、キャベツなど温帯の作物が育つ。
冬には平地でイチゴが採れ、夏にはマンゴーが並ぶ。

季節の違いを、標高差で同時に再現しているようなものだ。
地形の急さが、食卓の豊かさを下支えしている。

島全体が植物園のようになる理由

16世紀、ポルトガル人が「Ilha Formosa(麗しの島)」と呼んだのは、海から見た山の稜線だけではない。
その斜面を埋め尽くす緑の濃淡こそが、目を奪ったのだろう。

プレートの衝突が山を生み、北回帰線が熱を与え、標高差が植物を並べ替える。
夜市のマンゴースムージーの一口には、この複雑な地理条件が静かに溶け込んでいる。

台湾の植生分布は、地形の激しさを映し出す、もう一つの地図のように見える。

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