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台北・大同区 大稻埕魯肉飯についての記録

延平北路を北へ歩くと、台北橋の手前あたりから街の空気が少し変わる。
士林や饒河街のような賑やかさではない。
店と店のあいだに静けさがあり、通り過ぎるバイクの排気音だけが残る。

このあたりは延三夜市と呼ばれ、観光より生活の匂いが濃い。
食べ歩きというより、腹を満たすために訪れる場所だと思う。

その一角に、大橋頭魯肉飯がある。

幼肉という形の発見

ここを訪れた理由は、幼肉という聞き慣れない言葉だった。
豚バラ肉を1センチ角ほどの短冊状に切り、長く煮込んだものらしい。
そぼろより大きく、角煮より小さい。
箸で持ち上げると、脂身がぷるりと震え、赤身はかすかに抵抗する。

魯肉飯というより、肉と脂の境目をそのまま食べる料理のように感じた。
小さく切ることで、滷汁がすみずみまで染みている。
大きな肉塊とは違う、細かな満足感がある。

禁じられた組み合わせのような二層構造

ここには裏メニューがある。
幼肉飯に控肉も乗せるのだ。

控肉は角煮のことだ。
黒い滷汁をまとった塊が、ごく当たり前のように丼に置かれていく。

幼肉の層の上に、さらに大きな角煮を重ねると、ご飯はほとんど見えない。
肉の地層を掘り進めるように食べることになる。
この組み合わせが表のメニューに載っていないのは不思議だが、店も客も特に気にしていない。

台北のこういう距離感が好きだ。
必要以上に説明しない。
知っている人だけが静かに楽しむ。

延三夜市の空気

延三夜市は、観光夜市とは違って歩道が広く、店の明かりも控えめだ。
派手な呼び込みはなく、夕方以降は地元の人がバイクを停めて、すぐに席へ向かう。

大橋頭魯肉飯もそのひとつで、店構えに特別な装飾はない。
通りに面した鍋から湯気が立ち、油が少しはねる音が聞こえるだけ。
食べることが目的の街だと、歩きながら何となく理解する。

控肉の静かな美学

ここでは控肉の扱いが丁寧だと思う。
箸で切れる柔らかさなのに、形は崩れていない。
皮の部分は臭みがなく、ゼラチンの旨みだけが残る。

滷汁の甘さと醤油の苦味が混じる香りが、食べる前から重みを伝えてくる。
噛むというより、舌の上で溶ける。
幼肉の軽さとは別の満足感がある。

食べ終わったあと

丼を空にして店を出ると、延平北路の風が少し冷たく感じた。
歩道には食べ終えた人たちが淡々とバイクを出し、また目の前の交通の流れに戻っていく。

特別な体験ではない。
ただ、日常の一部を借りたような時間だった。

こういう店は、こちらが構えなければするりと日常に馴染む。
また歩いている途中、何となく入ればいいと思った。


大稻埕魯肉飯

住所: 103台北市大同區延平北路三段64-1號

営業時間: 11:00 – 22:00 (無休)

アクセス: MRT大橋頭駅 1A出口から徒歩約5分。延三夜市のメイン通り沿い。

地図https://maps.app.goo.gl/n3UvQGQXzYWUAomF7

「幼肉(短冊切りの肉)」が名物。さらに「控肉(角煮)」を追加トッピングするのが通の食べ方。脂身好きにはたまらない一軒。


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