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高雄・塩埕区 鴨肉珍についての記録

高雄の旧市街、塩埕区を歩く。古い商店の並ぶ通りに、ひときわ人が集まっている店がある。
鴨肉珍。創業65年以上。
地元の人が黙って列に並び、順番が来ると短い言葉で注文していく。

観光客も見かけるが、ここはあくまで街の食堂だ。
朝の少し湿った空気に、鴨の出汁の香りが漂っていた。


鴨肉飯は「肉燥」と鴨の二層構造

鴨肉飯を頼む。
白いご飯の上に、細かく刻まれた鴨肉が広がっている。
その上から、豚の肉燥がかかる。

鴨だけではない。
豚の脂の甘さと、アヒル肉の野性味が一緒になり、ひとつの皿を作っている。
タレは軽く甘い。
鴨の香りを邪魔しない程度に抑えられていた。

骨はきれいに取り除かれている。
箸を動かすと、そのままかき込める。
丼ではなく、深めの皿に盛られているのも、この店の流儀なのだろう。
ご飯と肉をまっすぐ味わえる。

食べ進めると、香りの重さがゆっくりと増していく。
濃い味ではないが、旨味が積み重なっていくタイプだった。


下水湯という名前のスープ

鴨肉珍で忘れてはいけないのが下水湯だ。
日本語の感覚だと一瞬身構える名前だが、高雄では内臓スープを指す。

透明なスープ。
砂肝、ハツ、レバーが沈んでいる。
臭みは驚くほどない。
生姜がしっかり効いていて、淡い香りが立つ。

鴨肉飯の濃さと、このスープの軽さ。
味の方向が真逆なので、交互に口へ運ぶと落ち着く。
高雄の朝食として、理にかなった組み合わせだと思った。


注文の風景と、店を支える記憶の力

注文は以前、口頭だけだったという。
店のおばちゃんが長年の勘で注文を覚え、次々と捌いていたらしい。
今はメニューが掲示され、観光客でも迷わず頼めるようになった。

それでも、店内のリズムは昔のままなのだろう。
列は途切れず、料理は止まらず、席はすぐに埋まる。
並んでから席に着くまでの時間が短い。
この効率の良さが、忙しい街の生活に合っている。

働く店員の動きに無駄がない。
だが、急かされている感じはなかった。
食べる側も、そのリズムを知っているようだった。


塩埕区の空気と、鴨の香り

塩埕区は古い街だ。
戦後の建物が残り、近くには駁二芸術特区の倉庫群がある。
新旧が混ざり合い、歩いていると街の時間がゆっくり流れる。

その中で、鴨肉珍はずっと働き続けてきた。
観光地ではなく、生活圏に根づいた飯屋だ。
人が集まるのは、料理が派手だからではない。
朝に、昼に、夜に、同じ味がそこにあるからだろう。

鴨肉飯を食べ終えるころ、皿の底に残ったタレの香りがふっと広がる。
その余韻が、店の歴史を静かに語っているようだった。


鴨肉飯という高雄の輪郭

鴨肉珍の料理は、簡単に説明できるものではない。
鴨の香り、豚の脂、生姜の匂い。
それぞれが小さな範囲で働き、派手な主張を避けている。

その控えめさが、高雄という街の輪郭に重なる。
強烈ではなく、穏やかでもなく、淡々と続いていく味。
旅先でたまたま出会うのではなく、そこに住む人と同じ速度で食べる料理だ。

店を出ると、塩埕区の路地に風が通り抜けていた。
鴨の香りがまだ残っていて、歩きながら少しずつ薄れていった。


鴨肉珍

住所: 803高雄市鹽埕區五福四路258號

営業時間: 10:00 – 20:20 (火曜定休)

アクセス: MRT鹽埕埔駅から徒歩約5分。駁二芸術特区からも近い。

地図https://maps.app.goo.gl/aoGLmWEaCoiKYMLu8

高雄を代表する鴨肉飯の名店。豚そぼろとアヒル肉が両方乗った「鴨肉飯」と、内臓スープ「下水湯」が鉄板の組み合わせ。


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