―― 高雄の朝と夜に、そっと灯る豆乳の店 ――
塩埕区の外れ、新樂街の一角。
まだ空気が柔らかい時間帯、店先には豆乳の湯気がゆるやかに漂っている。
田記豆漿は、30年以上この街の朝を支えてきた店だ。
けれどここは、朝だけの店ではない。
夕方になると、またシャッターが上がり、夜の食欲を受け止める。
高雄では珍しくない「二毛作」だが、旅人にとってはありがたい仕組みだ。
双蛋蛋餅という、朝のささやかな贅沢
メニューを開くと「双蛋」の文字が目に入る。
卵を二つ使った蛋餅は、ただの蛋餅ではない。
ふわふわとした卵の厚み、
古早味のモチモチした皮、
そして南部らしい甘い醤油膏。
それらが一つに溶け合い、
朝の身体に静かに落ちていく。
周りを見ると、常連たちは迷わず「双蛋」を選んでいた。
この店の正解は、もう決まっているのだと思った。
豆の輪郭がはっきり残る鹹豆漿
田記の豆乳は、豆の味が濃い。
鹹豆漿にすると、その強さがいっそう際立つ。
お酢がやや多めに使われていて、
豆乳はしっかり固まる。
油條を沈めてすくうと、朝の静けさにちょうどいい重さがスプーンに乗る。
二日酔いの翌朝でも、これなら優しく受け止められそうだと思う。
紅茶豆漿という正解のドリンク
高雄の紅茶は濃い。
その濃さが、豆乳と混ざっても負けない。
甘さ、渋み、まろやかさ。
三つの味が喧嘩せずに並び、
どこか懐かしい「台湾の朝の味」になる。
豆乳が苦手な人でも、この紅茶豆漿なら入口としてちょうどいい。
塩埕区の朝の速度の中で
田記豆漿の近くにはミルクティーの店が並ぶ「新樂街」がある。
朝になると、バイクにまたがった常連客が次々とやってきて、
袋に詰められた蛋餅と豆乳を手に、また走り去っていく。
そのスピードは、旅行者の歩幅とはまるで違う。
だが、その中に少しだけ自分の時間を差し込ませてもらうと、
高雄という街のリズムが、ゆっくりと身体に馴染んでくる。
豆乳の湯気も、雙蛋の温度も、
この街の朝のかたちそのものだった。
住所: 803高雄市鹽埕區新樂街75之3號
営業時間: 05:30 – 11:30 / 16:00 – 23:30 (日曜夜は休みの場合あり)
アクセス: MRT鹽埕埔駅 2番出口から徒歩約3分。新楽街沿い。
地図: https://maps.app.goo.gl/tQd2b7zcz2MPCZa16
卵2個入りの「双蛋蛋餅」が名物。タレをたっぷりかけて食べるのがおすすめ。夜遅くまで営業しているのも便利。
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