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台湾北部の気候 湿潤と北東季節風についての記録

台湾という島は、南へ行けば太陽に焼かれ、北へ行けば雨に濡れる。
そのコントラストを最も鮮やかに見せるのが、北部の冬である。

南部が乾季で青空に包まれているとき、台北・基隆・宜蘭は、灰色の雲と細かい雨にずっと覆われている。
旅人には少し不便でも、この「陰り」と「湿気」こそが、北部の自然と食文化をかたちづくっている。


太陽の南、雨の北

冬になると、大陸から冷たく湿った北東季節風(東北季風)が吹きつける。
風は台湾北部の山にぶつかり、雲を生み、その雲が延々と雨を降らせる。

この構造が、北部を「雨の土地」にする。

  • 日照時間が短い
  • 湿度が高い
  • 霧が発生しやすい
  • 冬でも緑が濃い

南部が「光」で育つなら、北部は「水分」で育つ土地なのだ。


霧がつくる味──台湾茶

北部を代表する農作物といえば、誰もがまず「台湾茶」を思い浮かべるだろう。

坪林の包種茶、猫空の鉄観音、新竹・苗栗の東方美人。
不思議なことに、名だたる茶の産地は北部に集中している。

その理由は、霧にある。

茶の木は、
強い日差し → 葉が硬くなり渋みが増える
霧・湿気 → 葉が柔らかくなり旨味が増える

という性質を持つ。
つまり、台北の冬のどんよりした空は、茶にとっては天からの贈り物なのだ。

南部のマンゴーが「太陽の凝縮」なら、
北部の烏龍茶は「霧の結晶」である。

香りが豊かで、喉に柔らかい。
その正体は、北東季節風と山の地形が生んだ北部固有のテロワールだ。


シダが語る湿潤の森

台湾は「シダ植物の王国」と呼ばれるが、特にシダの密度が異様に高いのが北部である。

街路樹の枝に着生するシダ、建物の隙間に勝手に生えてくるシダ、
山に入れば、足元の苔とシダがときに道を覆い尽くす。

  • オオタニワタリ
  • リュウビンタイ
  • クロトベラ類
  • 無数の苔と地衣類

これらはすべて、湿気が高く、光が弱い環境を好む植物だ。
北部の森は、シダによって太古の森のような景観をまとい、南部とはまるで別の島のように感じられる。


湿気がつくる、北部の「香りの文化」

自然の違いは、そのまま食の文化にも現れる。

南部:太陽 → 甘味 → マンゴー/甘い料理
北部:霧・湿度 → 香り → 茶・出汁文化

北部では、砂糖の量よりも、出汁の香りや醤油の深さが料理の基調になる。
そして、台湾茶の「香りを楽しむ」という文化は、この土地の気候そのものが育てたものだ。

雨音の中で茶藝館に座り、熱い烏龍茶を一口すすると、
それは単なる飲み物ではなく、この土地の気候を飲み込む体験なのだ。


甘味の南、香りの北

台湾は小さな島だが、北と南はまったく違う世界を生きている。
北部の風土は、太陽ではなく、湿気と霧が主役だ。

その霧が、
・森を深くし
・シダを増やし
・茶に香りを与え
・食文化に繊細さを残した

北部の一杯の烏龍茶には、雨の日々の記憶と、霧の森の気配が静かに溶けている。
それは、太陽の南には決して作れない、北の味である。

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