―― 台中駅裏に残る、角煮飯の正統派 ――
台中駅の裏手。
再開発が進む一帯の中に、昔のままの速度で営業を続ける食堂がある。
陳明統控肉飯。創業は50年以上前だという。
昼どきになると、店先に湯気と肉の香りがあふれる。
観光客が足を止めるというより、地元の客が黙々と席へ吸い込まれていく。
日常の食堂は、こういう場所に残るのだと思う。
控肉飯の完成度
看板の控肉飯は、三層肉か脚庫のどちらかを選ぶ。
大きな塊が白飯の上に乗り、その存在だけで一食が成立してしまう。
煮込みは3時間ほど。
サトウキビを使った煮汁は丸みがあり、醤油の色の濃さとは裏腹にとげがない。
台中の控肉飯らしく、肉には竹串が刺さっている。
崩れる寸前の柔らかさを保つための工夫で、皿に運ばれるまで形を保ち続ける。
箸を入れると、脂と赤身が静かにほどけていき、ご飯の湯気に混ざる。
派手さはないが、作り手の技術は確かだった。
裏の主役、碎肉飯
常連に人気なのは、角煮の端切れを集めた碎肉飯だ。
形は不揃いで、脂身と赤身の割合もまちまち。
しかし、その「不均一さ」が味の層を生んでいる。
煮汁がよく染みた部分、ほろっと崩れる部分、歯ごたえが残る部分。
順番に現れる変化が楽しく、完成された塊肉とは違う魅力がある。
形の整った肉より、崩れた肉の方が美味い。
B級グルメにありがちな逆転が、ここでも当てはまっていた。
酸菜が作る終わらない循環
卓上の壺に酸菜が置かれている。
自由に盛ることができ、これが思いのほか重要だった。
控肉飯を一口。
酸菜を少し。
また肉に戻る。
この循環が続くと、脂の重さが薄れ、ただ気持ちよく箸が進む。
台湾南部の控肉飯は酸菜を添える店が多いが、陳明統の酸菜は特にバランスが良かった。
台中後站という場所
店があるのは台中駅の後站側。
表の喧騒とは違い、古い建物が並ぶ、生活の香りがするエリアだ。
忠孝夜市も近く、夜になると地元の屋台が静かに灯る。
観光の中心とは少し距離がある。
だからこそ、この店の空気は生活の延長に近い。
誰かの昼休みの時間に、そのまま混ざり込んだような感覚になる。
店を出ると、ゆるい風が通りを抜けていた。
角煮と白飯の香りを思い出しながら、少し先の路地へ歩いていく。
住所: 401台中市東區忠孝路304號
営業時間: 10:30 – 15:00 / 16:30 – 19:30 (日曜定休)
アクセス: 台中駅からタクシーで約5〜10分。忠孝夜市の外れ。
地図: https://maps.app.goo.gl/ebHFwMs8KvDiiHrc8
創業50年の老舗。看板メニューは「控肉飯」だが、通は端肉を使った「碎肉飯」を頼む。酸菜は入れ放題。
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