―― 南屯の通りに漂う、牛骨スープの匂い ――
南屯の向心路を歩いていると、静かな住宅と商店が入り混じる。
昼でも夜でも、大きな声が響くわけではなく、生活の延長としての音だけがある。
その一角に、湯気が外へ流れ出ている店があった。
鮮道口福牛肉麵。
看板は控えめだが、スープの匂いがすでにこの店の強さを語っていた。
麺の選択肢が、丼の表情を変える
ここでは麺を選ぶことができる。細麺、太めの拉麺、冬粉(春雨)。
どれも同じ牛肉麺だが、麺が変わるだけで丼は別の顔になる。
太麺の拉麺を選ぶと、スープの重みに負けない弾力がある。
すすった瞬間、麺がスープをまとい、口の中で伸びすぎずにほどける。
この店の紅焼スープには、太麺がよく似合うと思った。
紅焼スープの深さ
スープは牛骨を長く煮込んで得られる濃い香りがあり、
その上に醤油の厚みと、八角などの香辛料が静かに重なっている。
味は力強いが、舌を刺すような辛さではない。
ほんの少しのピリ辛が、ひと口ごとに食欲を刺激していく。
辛さを足したければ、卓上の辣油をほんの数滴落とすだけで、風味が一段変わる。
丼を前にすると、スープの熱が顔に当たり、目の前の世界が少しぼやける。
その曖昧さが、この店の静けさとよく合っていた。
肉の柔らかさと存在感
具材の牛肉は大きめに切られている。
箸で軽く押すと、繊維がほどけるだけの柔らかさがある。
牛筋を選べば、スープを吸った脂の部分がとろりと溶け、別の満足感が生まれる。
肉の量は多く、丼の中で確かな存在感がある。
麺とスープだけでは終わらせない、しっかりとした一食を作っている。
店の空気と、南屯という場所
向心路は観光の通りではない。
だから、店に入るとローカルの空気がそのまま残っている。
店内は明るく、清潔で、一人でも入りやすい造りだ。
外へ出ると、店の前には次の客が静かに列を作っていた。
南屯の通りにしては、ずいぶん人が集まっている。
観光地ではない場所で、この混み方は珍しい。
丼の余韻を抱えたまま歩き出すと、背後で入れ替わる客の気配が続いていた。
人気店というのは、こうした日常の往復で成り立つのだと思った。
住所: 408台中市南屯區向心路99號
営業時間: 11:00 – 21:00 (月曜・日曜定休 ※要確認)
アクセス: MRT南屯駅から徒歩約5〜10分。
地図: https://maps.app.goo.gl/kTknDrX48eZdCWAH9
地元民に人気の牛肉麺店。麺の種類が選べるのが嬉しい。紅焼スープはコクがあり、肉も柔らかい。
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