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台湾南部の気候 完全なる熱帯についての記録

台湾のちょうど真ん中、北回帰線をまたぐと、空気が変わる。
嘉義を過ぎて台南に入ったあたりで、車窓の日差しが急に強くなるあの瞬間。

ここから南は熱帯になる。

台南・高雄・屏東。
北部のような冬は存在しない。1月でも昼は半袖で平気だ。

四季というより
「長い夏」と「少し涼しい夏」
が交互に来るだけ。

気温の折れ線グラフはゆるやかで、
季節ごとの表情は薄い。
ある意味、地球の赤道に向かう方向へ、一歩足を踏み入れた世界である。


風のメカニズム:西南季節風と「完璧すぎる乾季」

台湾の冬を特徴づけるのは北東季節風だが、
南部はこの風の影響を中央山脈が完全に遮断する。

冬(乾季)

・雲がつくられない
・雨が降らない
・毎日が快晴
・湿度が低く、さらりとした空気

北部が雨に濡れ、暗い空の下で傘をさす時期、
南部は「これ以上ないほどの乾燥と日差し」を手にする。

この乾燥が、サトウキビの糖度を上げ、
ボラの卵を黄金色に干し上げ、
世界屈指のカラスミ(烏魚子)を生む環境をつくる。

夏(雨季)

・海から吹き込む西南季節風
・スコールの爆撃
・降るときは一気に降り、止むときは一瞬

メリハリが極端だ。
空が白く光ったかと思うと、次の瞬間には道路が川になる。
そして10分後には、まるで何もなかったかのように青空が戻る。

南部の風と雨には、どこか短気な性格がある。


食文化への影響:太陽を食べる島

南部の果物は、太陽エネルギーの缶詰だ。

マンゴー

台南・玉井の愛文マンゴーが極端に甘いのは、
強烈な日差しと、山がちの地形が生む水はけの良さ、
そして乾季と雨季のコントラストが大きいから。

ストレスを受けた果樹は、必死に糖分を溜め込む。
南部の果物は、生存戦略そのものが味になっている。

料理の甘さ

暑さで消耗したカロリーを補うため、
南部の料理は砂糖をよく使う。
醤油の塩味を基調とする北部とは真逆で、
こちらでは甘味が味の基準線になる。

魯肉飯も、麺線も、煮込みも、
ひとさじの砂糖で輪郭が整う。

カラスミ(烏魚子)

冬の乾季の風と太陽がなければ、生まれない食材。
湿気の多い北部では作れない。
気候そのものが生む特産品である。


生活様式──太陽との距離感が、人の時間を変える

南部を歩くと、街の構造が気候と対話している。

騎楼(チーロウ:亭仔脚)は「日陰の回路」

雨よけだけでなく、
直射日光から逃れるための都市のシェルター。
陽の角度の変化に応じて、歩行者が自然と騎楼へ流れ込む。

夜型の社会

昼間は暑すぎて動けない。
活動量のピークは夕方以降にずれ込む。

だから――
夜市は育ち、
屋台文化は巨大化し、
南部の街は暗くなってから本気を出す。

ドリンクスタンドの巨大化

1000ccのバケツ型ドリンクが成立するのは、
単に流行ではなく、生命維持装置だから。

暑さに対して、南部の人々は水分補給と糖分補給で折り合いをつけてきた。


結論──陽気な気質の根っこ

北部の人が少しメランコリックになりがちで、
南部の人が「熱情的(ルゥチン)」で楽天的と言われる理由。

それは文化ではなく、
気候というハードウェアの影響が大きい。

隠れる場所のない太陽、
徹底した乾季、
突発的なスコール、
甘い果物、夜のにぎわい。

南部は、陽のエネルギーが街を支配している場所だ。

悩み事すら、あの強い日差しで蒸発してしまいそうな。
そんな気候が、人の気質を形作っている。

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