―― キャンベルストリートの黄色い壁 ――

ペナン島ジョージタウン、キャンベルストリートを歩く。
昼の光は強く、空気は重い。
車とバイクの音が途切れず、歩道の影だけが細い。
その通りに、黄色い壁が現れる。
鮮やかな黄色と緑に塗られた、コロニアル様式のショップハウス。
入口のあたりだけ、空気の密度が違うように見える。
Hameediyah(ハミーディヤ)。
看板には誇らしげに「Est. 1907」の文字がある。
ここは労働者の空腹を満たす場所であると同時に、ひとつの機関のような顔をしている。
マレーシア・ブック・オブ・レコーズにも認定された、現存する最古のナシカンダール店だと言われる。

別格の佇まい
ナシカンダールの店は、だいたい似た顔をしている。
ステンレスの台、湯気、カレーの匂い。
手早い盛り付けと、回転の速さ。
だがHameediyahは、少し違う。
路上の熱気の中にあるのに、建物の輪郭がはっきりしている。
黄色い壁は汚れているはずなのに、妙に「看板」として機能している。
入口の前で立ち止まっている観光客がいる。
その横を、地元の人が当たり前のように通り過ぎる。
同じ場所が、目的地にも通過点にもなっている。
木の下から始まった伝説
店内に入ると、カレーの匂いが先に来る。
その奥に、もう少し鋭い香りがある。
スパイスの粒が砕けたような匂いだ。
この店のルーツは、南インドから渡ってきたスパイス貿易商にあると言われる。
創業者のAhamed Seeni(またはM. Rajakkani)たちは、最初から料理人だったわけではない。
彼らはスパイスのプロだった。
当初は、この通りの向かいにあった大きなアンサナの木の下で、天秤棒(カンダール)を担いで料理を売っていたという。
「木の下のナシカンダール」。
その言葉が、いまでも物語として残っている。
貿易商として扱っていた最高級のスパイスを、惜しげもなくカレーに入れる。
それが評判を呼び、木の下から店舗へと移り、100年の歴史が始まった。
屋台が店になるとき、普通は何かが失われる。
だがここでは、失われる前に固定されたようにも見える。

味の核心は、自家製マサラの鮮度
多くの店が市販のカレー粉やミックススパイスに頼る中で、Hameediyahは今も自家製の挽きたてスパイス(Rempah)にこだわると言われる。
それは味の違いというより、香りの密度として現れる。
皿が運ばれてくる前に、空気の中に香りがある。
辛さより先に、香りが口の中に入ってくる。
おすすめとしてよく挙げられるのは、Beef Rendang(ビーフ・ルンダン)とAyam Kapitan(アヤム・カピタン)だ。
ビーフ・ルンダンは濃い茶色で、肉の繊維がほどけるまで煮込まれている。
甘さと辛さが同時にあり、油の重さが残る。
アヤム・カピタンは、同じ鶏でも少し表情が違う。
香りが明るく、後味が軽い。
スパイスの層が多いのに、どこか整っている。
肉の繊維一本一本にまで味が染み込んでいるが、ただ濃いだけではない。
複雑で、奥行きがあり、少し上品だ。
100年生き残った味とは、こういう形で残るのかもしれない。

黄色と緑は、ただ目立つためではない
Hameediyahの色は、黄色と緑だ。
初めて見ると、派手に見える。
だが通りの中に置かれると、意外と馴染む。
ジョージタウンのショップハウスは、色が強い。
青、赤、白。
その中で黄色は、古い広告のような温度を持つ。
この色は目立つだけでなく、ブランドカラーとして定着していると言われる。
店の中で食べていても、外の黄色い壁が頭に残る。
味と一緒に、色が記憶される。
もう一つの主役は、伝説のムルタバ
Hameediyahに来て、ナシカンダールだけで帰るのは片手落ちだと言われる。
ここにはもう一つの名物がある。
Murtabak(ムルタバ)だ。
スパイスで味付けした挽肉と玉ねぎを、小麦粉の生地で包んで揚げ焼きにしたもの。
多くの店ではサイドメニュー扱いだが、ここでは主役級になる。
驚くほど分厚く、具が詰まっている。
切ると中から湯気が出る。
生地の表面は香ばしく、油の匂いが強い。
添えられたピンク色の玉ねぎのピクルスと一緒に食べると、脂っこさが中和される。
酸味が入ることで、口の中が一度リセットされる。
その繰り返しで、意外なほど食べ続けられる。
ムルタバは、ナシカンダールの「茶色い山」とは別の方向の満腹を作る。
粉と油と肉の塊だ。
それがこの店では、軽く扱われていない。

ビリヤニを選ぶという流儀
ナシカンダールでは、白いご飯を選ぶのが普通だ。
だがここでは、Briyani(ビリヤニ)を選ぶ人もいる。
メニュー選びのコツとして語られることが多い。
スパイス商の店で、香りのある米を選ぶ。
それは少し納得できる流れだ。
白いご飯は、カレーを受け止める器になる。
ビリヤニは、米自体がすでに味を持っている。
カレーをかける前から、皿の中に香りの層がある。
どちらが正しいという話ではない。
ただ、この店では米を選ぶ段階から、香りの設計が始まっているように見える。
過去と現在が同居する二階
二階席に上がると、エアコンが効いた空間がある。
階段を上がった瞬間に、熱が薄くなる。
古いタイル。
高い天井。
壁に飾られたモノクロの創業当時の写真。
しかし、運ばれてくる料理は、100年前の木の下で労働者たちが食べていたものと変わらないはずだ。
観光客も、地元の常連も、同じテーブルで茶色い山を崩している。
建物は綺麗になった。
だが熱気と味は、冷凍保存されているかのように鮮やかだ。
外の通りの雑音が遠くなっても、皿の上の匂いは消えない。
スパイスの守り人
店を出ると、再びジョージタウンの熱帯の空気に包まれる。
外は湿っていて、肌がすぐに汗を思い出す。
しかし体には、カルダモンやクローブの余韻が残っている。
しばらくは、水を飲んでも消えない。
「最古」であることは、単に古いことを意味しない。
それは一世紀以上にわたって、この街の味の基準を守り続けてきたという証明にも見える。
Hameediyahの黄色い壁は、今日もスパイスの香りで道行く人を誘い続けている。
木の下から始まった匂いが、いまは建物の中に固定されている。
Hameediyah Restaurant(本店)
— 164 A, Lebuh Campbell, George Town, 10100 George Town, Pulau Pinang, Malaysia
— 毎日 9:00~23:00 ※祝日は要確認。
— スパイス商が創業者。マレーシア記録(Malaysia Book of Records)にも認定。




