―― ツインタワーの足元で、夜とカレーが混ざり合う ――
顔を上げると、クアラルンプールのツインタワーが光っている。
ガラスと鉄でできた、近未来的な風景だ。
そのまま視線を下に落とす。
そこには、油とスパイスの匂いが充満する半屋外の巨大食堂がある。
Pelitaは、その落差の真ん中にある。
この街の分かりやすさと、分かりにくさが同時に見える場所だ。
ナシカンダーという形式
ナシカンダーは料理名ではない。
もっと正確に言えば、食事のやり方だ。
白いご飯。
そこに、客が指差した惣菜を次々と乗せていく。
最後にカレーをかける。
どのカレーかは重要ではない。
むしろ、混ざることが前提になっている。
注文という名の小さな儀式
Pelitaでは、自分で取らない。
ショーケースの向こうにいる店員に、ただ指を出す。
ここで覚えておきたい言葉がある。
Kuah Campur(クア・チャンプル)。
これを言うと、
魚、鶏、牛のカレーが少しずつ、ご飯の上に重ねられる。
もっと浸したければ、
Banjir(バンジール)。
ご飯は完全に溺れる。
単一の味ではなく、スパイスの層を食べることになる。
伝票は「だいたい」で決まる
皿が完成すると、店員は一瞬こちらの皿を見る。
量、肉の種類、だいたいの盛り具合。
計算はしない。
測りもしない。
その場で、何か打ち込んで、札を皿の上に置くか手渡してくれる。
それが伝票だ。
正確かどうかは、誰も気にしていない。
この「適当さ」が成立していること自体が、
ナシカンダーが日常である証拠でもある。
主役はアヤムゴレン
カレーもいい。
だが、Pelitaでまず目に入るのは、山積みのフライドチキンだ。
アヤムゴレン。
衣にスパイスが練り込まれた、赤茶色の塊。
回転が早い。
つまり、ほぼ揚げたてに近い。
これを一つ乗せるだけで、皿は完成に近づく。
ママックが眠らない理由
Pelitaは24時間営業だ。
深夜でも、席は埋まっている。
若者、タクシー運転手、観光客。
テ・タリを飲みながら、テレビでサッカーを見ながら、特に意味のない会話をしている。
ここはレストランというより、
夜の社交場に近い。
食事は口実で、
人が集まる理由は別にある。
食べ終わったあと
皿はすぐ下げられる。
伝票を持って、レジで支払う。
外に出ると、また街が光っている。
さっきまでのカレーの記憶は、生ぬるい空気に混ざって、すぐに薄くなる。
住所: 113, Jln Ampang, Kuala Lumpur, 50450 Kuala Lumpur
営業時間: 24時間営業(無休)
アクセス: LRT「KLCC」駅から徒歩約5分。ツインタワーの近く。
地図: https://maps.app.goo.gl/dQ1JrkAAR8SppLgs7
観光客も利用するナシカンダーの大手チェーン。ツインタワー近くで食べられるローカルフード店としては貴重。
■ ナシカンダー(網羅的な解説)
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