―― ビジネス街に溶け込む「日常の餃子屋」 ――
昼前に復興北路を歩くと、黄色い看板が静かに視界へ入ってくる。
八方雲集の復北店だ。台湾ではどこにでもある店だが、ここは周囲の空気とよく馴染んでいる。
八方雲集の主力は鍋貼。細長く、片面だけを強く焼いた棒状の餃子だ。
皮は少し厚く、噛むともちっとして、底面は軽い焦げでカリッと割れる。
中の餡が見える作りで、油に当たった部分が薄く透ける。
キャベツの招牌が基本だが、韓式辣味やカレー味もある。
それらを一つずつ混ぜて頼めるのが、この店の利便性そのものだ。
数を決めずに、ただ食べたい分だけ書き込めばいい。
酸辣湯という相棒
鍋貼を前にすると、自然と酸辣湯を思い出す。
とろみのあるスープが、餃子の油を静かに流してくれる。
椎茸の香りと酢の酸味が届き、食欲のルートを切り替える。
豆乳を合わせる人もいる。黒豆乳の淡い甘さが、揚げた皮の香ばしさを引き立てる。
選択肢は多いが、いずれもこのチェーンが持つ「日常食としての設計」によく合っている。
ビジネス街の昼
復北店は観光客がほとんどいない。
客の大半は近くのオフィスの人たちで、昼どきは店の前に列ができる。
テイクアウト用の袋が何枚も積まれ、スタッフが記入票を次々と読み上げていく。
注文が食事というより作業のように処理されていく。
この店は「美食」を求めて訪れる場所ではない。
午後の仕事のために補給する場所。
そのドライさが、この街区のリズムと合っている。
席につくと、油の音と短い呼吸が混ざったような店内のざわつきが耳に届く。
道を挟んで向かい側のビルには、別の昼休みがそれぞれ走っている。
復北店はその流れの一部として、ただ静かに稼働している。
チェーン店の安心感
八方雲集は1,000店を超える巨大チェーンだ。
評価が低い店が混じるのは、この規模なら避けられない。
ただ、旅先で「冒険したくない」気分の日に、黄色い看板がどれだけ救いになるかは、滞在が長くなるほど実感する。
オーダーシートに正の字を書くだけで頼める。
味は、どこで食べても大きくはぶれない。
台湾の餃子を食べたいが、店を探す気力がないとき、
このチェーンは旅の機能として成立している。
鍋貼の多様性
カレー味の鍋貼は、皮がうっすら黄色い。
香りが油と混ざり、鉄板から立ち昇る。
辛味は控えめで、餡の甘さを残したまま味を変える。
韓式辣味はニンニクの強さが際立つ。
招牌は一番穏やかで、皮のもちもち感を素直に受け取れる。
三種類を並べてみると、チェーン店の画一性よりも、むしろ「選択肢としての豊かさ」が目立った。
気分に応じて味を調整できる。
そうした自由さが、八方雲集の普及の理由なのだと思う。
街に馴染む店
昼のピークが過ぎると、店は急に静かになる。
片付ける音と、時おり入ってくる客の足音だけが残る。
外に出ると、復興北路を車が通り過ぎていった。
ビジネス街の昼は短く、その中でこの店は淡々と役目を果たしている。
必要以上に語らなくていい料理。
期待しすぎずに入る店。
住所: 10476台北市中山區復興北路398號
営業時間: 10:30 – 21:30 (無休)
アクセス: MRT中山國中駅から徒歩約5分。ビジネス街の大通り沿い。
地図: https://maps.app.goo.gl/EQTxfSVf9fXcfewM7
台湾最大の餃子チェーン。「招牌鍋貼(キャベツ焼き餃子)」と「辣味鍋貼(キムチ焼き餃子)」を数個ずつ頼むのがおすすめ。
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