―― 南京東路の裏側、朝から動く熱源 ――
南京東路のオフィス街を背にして、一本路地へ入る。
車の流れが途切れ、歩く速度が自然と落ちるあたりで、白い蒸気が見えてくる。
黄色い看板。
その下に積み上げられた蒸籠の塔。
遠目には料理店というより、熱を発生させる設備のようにも見える。
多くの小籠包店が昼か夕方から動き始めるのに対して、ここは朝から蒸気を止めない。
観光客のディナーではなく、出勤前や昼前の地元客が次々に入っていく。
この時間帯に蒸籠が積み上がっていること自体が、この店の性格を示しているように思える。
「厚み」という選択
席につき、小籠湯包を注文する。
蒸籠が運ばれてきた瞬間、まず目に入るのは皮の厚みだ。
薄さを競う小籠包に慣れていると、少し意外に感じる。
だが近くで見ると、雑さではないことがわかる。
皮は均一で、折り目も整っている。ただ、意図的に厚い。
世間では、皮は薄いほど技術が高いとされがちだが、ここは別の方向を選んでいる。
理由は見た目からも想像できる。
内部に含まれるスープの量が多い。
薄皮では、この重量を支えきれない。
箸で持ち上げると、小籠包は重く垂れ下がる。
皮が張力を受け止め、形を保っているのがわかる。
これは技巧の誇示ではなく、構造としての選択に近い。
肉汁としてのスープ
レンゲに移し、箸で皮を割る。
中から流れ出るのは、澄んだスープというより、溶けた脂を含んだ肉汁だ。
香りは豚肉が前に出ている。
繊細な香味野菜の輪郭は控えめで、主張は一方向に集約されている。
味わいは単純だが、弱くはない。
舌に触れた瞬間、脂のコクが広がり、温度とともに押し寄せてくる。
整った味というより、量と密度で成立している感覚に近い。
噛む前から、口の中が満たされていく。
蟹味噌入りという変奏
もう一つの蒸籠には、蟹黄小籠包が入っている。
皮の内側に、黄色い脂が透けて見える。
皮を破ると、豚肉の脂に甲殻類特有の香りが重なる。
味はさらに濃く、輪郭も太くなる。
高級店であれば、少量で供されそうな内容だが、ここでは一人前の量で出てくる。
驚きよりも、持続する重さが残る。
味を分析するというより、体感として受け取る料理だ。
逃げ場としての脇役
小籠包の密度が高いため、サイドメニューは自然と重要になる。
蝦仁蛋炒飯は、驚くほど淡い。
油は控えめで、塩味も最小限。
具材も主張しない。
これは主役になろうとしていない。
白米に近い役割で、脂を受け止め、次の一口へつなぐ。
酸辣湯も同様だ。
酸味や辛味で刺激するタイプではなく、とろみと温度で整える方向に寄っている。
どちらも、小籠包の強度を前提に設計されているように感じられる。
作業としての接客
店員の動きに装飾はない。
愛想も控えめだが、迷いもない。
蒸籠を運び、空いた皿を下げ、次の注文を確認する。
言葉は最小限で、動線は明確だ。
ここでは「もてなす」というより、「滞りなく回す」ことが優先されている。
その方が、この料理には合っているように見える。
朝の熱量
食べ終えて店を出ると、再び南京東路の音に戻る。
胃に残るのは、脂の重さと温度だ。
これは洗練された芸術品ではない。
だが、朝や昼に必要な熱量を、確実に供給する料理ではある。
薄く繊細な小籠包が特別な日の料理だとすれば、
ここで出されるものは、日常を動かすための燃料に近い。

住所: 105台北市松山區南京東路四段133巷4弄1號
営業時間: 9:00~14:00 / 17:00~20:30 (月曜定休)
アクセス: MRT「台北小巨蛋(台北アリーナ)」駅 5番出口から徒歩約5〜10分
地図:https://maps.app.goo.gl/ob3XDZa8P5dZw2JC9
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