―― 牯嶺街に溶け込む、菜肉餃という完成形 ――
中正紀念堂から南へ歩き、南門市場の方へ向かう。
大通りから一歩だけ外れると、音の粒が細かくなるような感覚がある。
牯嶺街。かつて古本屋が並んだ通り。
その静けさの中に、黄龍荘はある。
看板には小籠包の文字が大きく出ている。
けれど、今日は菜肉餃だけを食べに来た。
菜肉餃の輪郭がはっきりしている
蒸籠のふたが開く。
白い皮の下から、淡い緑が透けて見える。
湯気が立ち上がり、野菜の匂いが先に届く。
菜肉餃は野菜のクセが出やすい料理だ。
雪菜や青菜の「草っぽさ」が強く出る店も多い。
だが、黄龍荘の菜肉餃にはその雑味がない。
野菜の甘さ。
豚肉の脂の旨味。
どちらかが突出するのではなく、ちょうど真ん中で合流する。
「無限に食べられる」という感想が、冗談ではなく事実に近い。
噛むとシャキッとした歯触りのあと、肉の柔らかさに切り替わる。
その切り替わりが自然で、身体に負担がない。
菜肉餃という料理が持つ理想形を、そのまま提示しているように感じた。
皮の仕事が正確で静か
皮は薄すぎない。
持ち上げても破れず、しかし噛むとやわらかくほどける。
この弾力の残し方に、職人の仕事が出ている。
スープを抱える小籠包とは違い、菜肉餃は具の食感が主役だ。
そのため、皮の厚みひとつが印象を左右する。
黄龍荘の皮は、不必要に主張せず、具を支えるためだけに存在している。
小籠包ではなく、菜肉餃の店として眺める
世の中の評価では小籠包の店として語られがちだが、
菜肉餃を中心に据えると、この店の別の層が見えてくる。
肉汁の爆発ではなく、野菜の輪郭。
派手な演出ではなく、持続的な満足感。
静かな点心の時間が流れていく。
「蘇式小湯包」というもう一つの顔
メニューには「蘇式小湯包」という小さな点心もある。
スプーンに収まる極小サイズで、別添えのスープと合わせて食べる。
湯包をすくうという行為は珍しく、他店ではあまり見ない形式だ。
菜肉餃のあとにこの小湯包を続けると、
点心のリズムが細かく変わり、食事が静かに転調する。
牯嶺街の空気と合う料理
店を出ると、午後の光が建物の角に落ちていた。
古本屋街の名残が薄く残る通りを、歩く人がゆっくりと横切る。
黄龍荘の菜肉餃は、強さよりも整いを選んだ点心だと思う。
派手ではないが、記憶に残る。
この通りの速度とよく合っていた。
住所: 100台北市中正區牯嶺街43號
営業時間: 10:00 – 20:00 (月曜定休)
アクセス: MRT中正紀念堂駅 2番出口から徒歩約5〜8分。南門市場の裏手エリア。
地図: https://maps.app.goo.gl/niwxQ2NcgT2ZNZUT8
鼎泰豊出身の職人が営むという噂の店。「菜肉蒸餃」は野菜のえぐみがなく、肉とのバランスが絶妙で必食。極小の「蘇式小湯包」もユニーク。
コメント