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高雄・新興区 龍門客桟肉燥飯についての記録

美麗島駅と信義國小駅のあいだ。
復興一路の通りに、小さな店がひとつある。
木枠の看板に「龍門客桟肉燥飯」と書かれている。
華やかな観光エリアから少し離れたその場所は、夜の闇に溶け込んでいた。

店名には、かつて武侠小説や映画に出てくる荒野の宿屋「客桟」の記憶がある。
古びた宿の重みを感じさせるその名前は、
店の構えや内装のトーンと自然に一致していた。

木のテーブルと椅子、控えめな照明。
装飾はほとんどなく、退廃や古さを演出するでもない。
だが、そこには無言の時間が漂っていた。
夜が深まるにつれ、街の音は遠く、店の空気だけが残るような雰囲気だ。


甘さと脂の厚みをまとった肉燥飯

この店の代表的な料理が、「肉燥飯」である。
肉は脂を多く含んだ豚バラが使われ、細かく刻まれている。
たっぷりの濃いたれがご飯にかかり、見た目だけでもその重みが伝わってくる。

味は「甘め × 脂身多め」が基本。
醤油と砂糖の甘み、脂のコクが重なり、濃厚ながらも重すぎないバランスを保っている。
たれの量は多く、ご飯がそのまま染み込んで、皿の白はほぼ消える。

このタイプの肉燥飯は、高雄を含む南部で長く支持されてきたスタイルだ。
甘さと脂の強さを特徴とし、ご飯との相性を追求する。
この店はその王道を、比較的素直な形で守っている。


半熟鴨蛋(ヤータン)と、味の層を変える仕立て

肉燥飯には、トッピングとして半熟の煮玉子がよく合う。
鶏卵ではなく、鴨の卵が使われる。黄身はやや大きめで、味も濃い。

この店では、その黄金蛋がたれと混ざることで、味の印象が大きく変化する。
甘く濃いタレに、黄身の油分が加わることで、全体が滑らかになる。
脂と甘さにさらにまろやかさが重なり、肉燥飯が別の表情を得る。

甘さ・脂・黄身の三層構造。
そのバランスがこの店の肉燥飯の完成形の一つだろう。


筍干の酸味が肉の重さをほどく脇役

皿の脇には、筍干(メンマの煮物)が添えられている。
メンマのような歯ごたえと、軽い酸味が特徴だ。

脂と甘さの厚みがある料理に対し、筍干の酸味と繊維質の食感が緩衝材になる。
味が重くなりすぎず、口の中をさっぱりさせる。

南部の食堂では、濃厚な肉料理を軽やかな食感で受け止めるための脇役が、意外と重要な役割を果たす。
この店では、肉燥飯に添えられる筍干が、その役割を担っている。


観光地を抜けた静けさの中で

店がある復興一路は、観光地の明るさから一歩離れた場所にある。
夜遅くまで営業する店だが、客の多くは地元の人々だ。
観光の賑わいは見られず、あくまで街の生活圏の一つとして機能している。

街灯の光は弱く、通りにはバイクの音が断続的に響く。
その中で、木造のテーブルと豚肉の甘いにおいが混ざる。
派手ではないが、どこか落ち着いた時間がそこにはあった。

店内の空気は湿度を帯び、しかしよどんではいない。
観光客向けの店が整えて見せる清潔さではなく、
日常の食堂として自然な風景だ。

高雄の都市が変わっていくなかで、この店は変化の波より少し離れて、
静かにその存在を保ち続けているようだった。


肉燥飯という一皿に映る街の姿

龍門客桟肉燥飯は、派手さも高級感もない。
ただ、南部の肉燥飯の基本に忠実で、
濃さ、脂、甘さ、卵、筍干――それぞれがそのまま皿の上にある。

その一皿を夜の街角で食べると、
高雄という街の混ざり方や、時間の流れや、生活の質が少しだけ見えてくる。

雑多でもなく、気取ってもいない。
ただ、肉と米の濃さが、夜の空気に溶けている。


龍門客桟肉燥飯

住所: 800高雄市新興區復興一路50-2號

営業時間: 10:30 – 14:00 / 16:30 – 20:00 (不定休) ※要確認

アクセス: MRT信義國小駅から徒歩約5分。美麗島駅からも徒歩圏内。

地図https://maps.app.goo.gl/jsqMtw4vx2G4eJ81A

武侠映画のような店名だが、味は本格派の肉燥飯。甘めのタレと半熟卵、そして付け合わせのメンマが特徴。


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