—— タレなし蚵仔煎と、油飯・麺線の三本柱 ――
饒河街夜市の入り口(松山慈祐宮の前)から歩くと、
すぐに「百年老店」の木札が掲げられた店が見える。
ここが 東發號(トンファハオ)。
蚵仔煎の名店として知られているが、実はそれ以上に「三本柱の飯屋」として成立している老舗だ。
1930年代創業。
朝8:30から夜まで営業し、夜市のすぐ脇で“朝から開いている”という珍しい存在でもある。
1. タレなし蚵仔煎という「例外」
台湾の蚵仔煎は、甘いピンク色の海山醤が欠かせない。
しかし東發號の蚵仔煎には 最初からタレがかかっていない。
別添えのソースや卓上の辣椒醬をつけるのは客の判断。
店の姿勢としては、
「牡蠣・卵・粉の香ばしさだけで成立する」
という自信の表れだ。
鉄板で片面をしっかり焼きつけるため、
外側はカリッ、中はQQ(モチモチ)。
味付けが極端に控えめなので、牡蠣の塩気がダイレクトに伝わる。
タレ文化の本場である台湾において、
このスタイルは珍しい。
いわば 素材勝負型の蚵仔煎と言える。
2. 実は主役は「油飯」と「麺線」
東發號は、蚵仔煎の店というより 三本柱の店 だ。
● 油飯(ヨウファン)
麻油(ごま油)・椎茸・干しエビの香りが強く、
噛むほど味が滲むタイプ。
重すぎない蒸しおこわで、麺線との相性がよい。
● 麺線(麵線)
透明感のあるスープで、
一般的な牡蠣やホルモンではなく 肉羹(肉つみれ)が入っている。
鰹出汁が効いており、
とろみは控えめで朝食向けの軽さ。
「夜市の中にあるのに朝から食べやすい麺線」という、独自の立ち位置を確立している。
油飯と麺線だけを頼んでいく地元客も多い。
蚵仔煎の店と思って入ると、
油飯・麺線屋に蚵仔煎が付随している構造に気づく。
3. 廟の横にある「静けさのポケット」
ロケーションは、饒河街夜市の象徴である 土地公廟(福徳宮)のすぐ隣。
夜市の喧噪が一段落する位置で、
朝の時間帯は特に静かだ。
夜市は夕方以降に始まるが、
東發號は朝8:30から淡々と油飯と麺線を提供している。
同じ通りなのに、
「朝の食堂」と「夜の屋台街」が切り替わる
不思議な境界にある。
店内はシンプルなテーブルと椅子、
昭和の食堂のような空気。
観光夜市の中で、ここだけ時間がゆっくりだ。
4. 夜市の中で果たす「定点」の役割
饒河街夜市は賑やかで、派手な看板や行列店が多い。
その中で東發號は、
派手ではないが、確実に使える飯屋、という役割を担っている。
・観光客が食べ歩きに疲れたとき
・地元の人が静かに一人で夕食を済ませたいとき
・朝におこわと麺線を食べて出勤するとき
夜市という舞台で、
控えめだけれど欠かせない支点のようなだ。
住所: 105台北市松山區饒河街143號
営業時間: 08:30 – 24:00 (無休)
アクセス: MRT松山駅 1番出口から徒歩約5分。饒河街夜市の中ほど、土地公廟の隣。
地図: https://maps.app.goo.gl/kYBvbY5RkPPc6UhW7
1937年創業の老舗。看板メニューは「油飯」「麵線」「肉羹」。牡蠣オムレツ(蚵仔煎)はタレがかかっていないクリスピータイプ。
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