―― ほんのり甘い紅焼、丼を覆う肉の圧力 ――
台中・北區。
車通りの多い通りから一本入っただけなのに、空気が少しゆるむ。
その路地の奥に「吳家莊頂級牛肉麵」はある。
名前に頂級(プレミアム)とついているが、店構えは質素だ。
派手な看板もない。
けれど、昼どきを過ぎても客が途切れず入っていくのを見ると、
この店が地元に根付いていることが分かる。
「頂級」の意味は、スープのとろみにある
丼が運ばれてくると、まずスープの色に目が止まる。
台北のキリッとした醤油スープではない。
もっと濃厚で、粘度があり、光を鈍く反射する。
牛骨を長時間煮込んだときだけ生まれる膠質(ゼラチン質)のとろみ。
レンゲを入れると、わずかに抵抗を感じるほどだ。
飲むと、甘みが先に来て、そのあとに深いコクが立ち上がる。
唇が少しペタつくほどの濃度。
「頂級」という名は、店の雰囲気ではなく、
このスープの“密度”のことを指しているのだと思う。
丼の景色を支配する肉の山
什錦牛肉麵、あるいは半筋半肉麵を頼むと、
麺は一切見えない。
巨大な牛腱、ハチノス、トロトロのスジ肉が層になり、
丼の表面を完全に覆い尽くしている。
箸で軽く押すだけで、肉はスッと割れる。
スジはゼリーのように震え、
腱は繊維をほどくようにほぐれていく。
200元を超える価格にも理由がある。
これは牛肉麵というより、
肉料理に麺が付いてくる料理だ。
ニンニク好きへの回答「蒜香牛肉乾麵」
スープ麺が主役の店だが、
汁なしの蒜香牛肉乾麵も人気が高い。
強めのニンニク香るタレが麺に絡み、
別添えの濃厚スープを合間に飲むスタイル。
港園の汁なし(拌麵)を愛する人なら、
このガーリックのパンチに心を掴まれるはず。
静かな店構えなのに、出てくる味はかなりワイルドだ。
酸菜は味変ではなく箸休め
卓上には酸菜(漬物)が置かれ、自由に取れる。
ただし、この店の紅焼スープは完成度が高すぎて、
スープに直接入れると味のバランスが崩れてしまう。
常連客は、
「酸菜は別皿」
という暗黙のルールで食べていた。
濃厚な肉とスープの合間に、酸菜を少し。
その繰り返しで最後まで食べ進められる。
食べ終えて外に出ると、台中の風が軽かった
丼を置いた瞬間、しばらく動けなかった。
満腹ではなく、圧倒されたという感覚だ。
外に出ると、台中の風はゆっくり流れていた。
あの重たいスープと肉を食べたあとでも、
不思議と身体が重くならない。
住所: 404台中市北區永興街234號
営業時間: 11:00 – 14:00 / 17:30 – 20:00 (月・火曜定休)
アクセス: 台中駅からタクシーで約15分。永興街の警察署(第二分局)の近く。
地図: https://maps.app.goo.gl/sSBFsGhheDngCCFD8
台中屈指の濃厚牛肉麺。スープはコラーゲンでとろみがある。「什錦牛肉麵(全部乗せ)」は肉の量が凄まじいので、空腹時に挑むべし。
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