―― 都市の休日と、鮮度が決めるサイクル ――
台北の昼下がり。
普段は湯気と人声が溢れるはずの食堂が、シャッターを半分下ろしている。
貼り紙には「星期一公休」。
この「月曜休み」という習慣は、チェーン店ではなく家族経営の店ほど顕著だ。
週末の熱量が街から抜け落ちたような静けさ。
なぜ台湾の食堂は、こんなにも月曜日に休むのか。
市場というペースメーカー
答えを探すために裏側を見ると、そこには市場(傳統市場)の影がある。
台湾の多くの青果市場・肉市場・魚市場は、
月曜日が休市日だ。
台湾の食堂は在庫を持たない。
冷凍庫に原材料を詰め込む発想ではなく、
「朝、市場で仕入れたものを、その日のうちに売り切る」
という文化の上に成り立っている。
だから、
- 市場が動かない
- 新しい食材が入らない
- 店を開ける意味がない
という、シンプルな論理が成立する。
「市場のリズム=食堂のリズム」。
都市全体が、まず市場に同期しているのだ。
「温体肉」への執着
特に強い影響を受けるのは、肉を扱う店だ。
台湾には「温体肉(ウェンティーロウ)」という概念がある。
屠殺してすぐの肉で、冷蔵も冷凍もしない。
牛肉湯、魯肉飯、猪脚飯など、名物はこれを前提に味が組み立てられている。
ところが、屠畜場は日曜日に稼働を止めることが多い。
ということは、
- 月曜の朝に新しい肉が届かない
- 温体肉で作れない
- なら、店を開ける理由がない
という流れになる。
月曜休みは怠慢でも経営都合でもなく、
「味の鮮度を守るための誠実さ」の結果なのだ。
人間側の都合もある
もちろん、経済構造だけでは説明しきれない部分もある。
台湾の外食ピークは土日。
家族連れ、旅行客、行列ができるほどの混雑。
多くの食堂は家族経営で、週末は消耗戦に近い。
だから月曜日は、
- 銀行や役所に行く
- 子どもを連れて病院へ行く
- 仕込みの大量作業を片付ける
こうした「生活のメンテナンス」のためにも必要な休息になる。
社会全体は月曜から動き出すが、
食堂だけは週末の反動で月曜にブレーキを踏む。
この「交代制」によって都市の生活は維持されている。
静寂は品質の証
月曜日に営業している店が悪いわけではない。
チェーン店や冷凍在庫を多く抱える店は月曜でも営業している。
ただし、
月曜日に閉まっている店には、別の価値がある。
- 市場と鮮度に同期している
- 温体肉にこだわっている
- 仕込み量が多い本物の食堂である可能性が高い
だから、旅先で月曜に店が閉まっていても、
がっかりする必要はない。
それはむしろ、
「この店は素材の鮮度を大事にしている」
というサインなのだ。
■参考記事:以下も台湾の食堂に関する考察


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