―― 台湾の街角を支える小さな経済システム ――
台湾の街を歩くと、どの通りにも朝食屋がある。
蛋餅、焼餅、豆乳、飯糰。
それらが毎朝大量に流れ出していく光景は、
単なる食文化ではなく、ひとつの経済システムでもある。
なぜ台湾では、あれほど多くの店が成立するのか。
その裏側には、いくつかの仕組みがある。
朝に特化した「短時間経営」
台湾の朝食屋は、昼前にはピークを終える。
営業時間は実質4〜5時間で、
夜市や食堂とはまったく異なる時間軸で動いている。
短時間で売り切る構造は、人件費と光熱費の負担を抑え、
家族経営と相性が良い。
ピークに人を集中させることで、
少人数で高い回転を出すモデルが成立している。
台湾の朝に人が集まるのではなく、
店の側が「朝だけ集中的に稼ぐ」仕組みを選んだ。
メニュー構造の単純化
蛋餅の皮、焼餅、饅頭、飯糰の具材。
一見種類が多いようでいて、
実は共通の材料と工程から分岐している。
蛋餅の皮は大量にストックでき、
焼餅は朝にまとめて仕込み、
油條は仕入れかセントラルキッチンで補う。
作業が水平分業されている分、
店頭での動きはスムーズになる。
厨房の小ささは工程の圧縮率の高さを示している。
豆乳が支えるキャッシュフロー
朝食屋の売上の中で、豆乳の占める比率は大きい。
原価が低く、提供が早く、外帯比率が高い。
豆乳は、蛋餅や焼餅の「付属品」ではなく、
キャッシュフローを安定させる基盤として機能する。
どの店にも豆乳が置かれているのは、
この安定性を支えるためだ。
飲料が動くことで、店の経済が流れる。
外帯文化の強さ
台湾では、朝食の多くが持ち帰りだ。
外帯が多いということは、客席の回転を気にしなくてよい。
店構えが簡素になり、
家賃の安い立地でも成立する。
外帯文化は、朝食屋を都市のどこにでも置ける業態に変えた。
それが結果として、店の多さにつながっている。
サプライチェーンの軽さ
蛋餅の皮や焼餅の生地、油條、豆乳の大袋。
朝食屋は、既製品と手作業の中間にある。
完全手作りに見えて、
実際は多くの工程が外部化されている。
この軽さが、個人経営を可能にしている。
朝食屋は、台湾食品産業の末端にあるようでいて、
スモールビジネスを支える中継点でもある。
朝の街を支える小さな循環
台湾の朝食屋は、安くて早くて美味しいだけの業態ではない。
短時間経営、軽いサプライチェーン、外帯文化、豆乳の回転。
それらが絡まり、街角に小さな経済圏をつくっている。
朝の通りを歩くと、
外帯袋が等間隔に揺れ、
スクーターが流れを作り、
豆乳の湯気が上がる。
台湾の朝は、料理よりもまず経済が動く音を含んでいる。
それが落ち着く頃、街は次の時間へ進んでいく。
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