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髭須張魯肉飯(ひげちょう)についての記録|台湾のチェーン店

魯肉飯は、台湾では最も身近な料理のひとつだ。
路地裏の屋台なら、30元もあれば一杯食べられる。

その感覚で髭須張に入ると、少し戸惑う。
値段はその倍近い。
現地の年配の人が「観光客向けだよ」と言うのも、わからなくはない。

それでも昼時になると、店内は地元の会社員や家族連れで埋まっている。
この店は、安さを競っているわけではない。

髭須張は、魯肉飯を
「屋台料理」ではなく
誰もが安心して入れる、再現性の高い食事システムとして作り直した店だ。


「涼しさ」と「清潔」を買う場所

屋台の名店には、暗黙のリスクがある。
暑い。
混んでいる。
衛生状態が読めない。
接客は最低限。

髭須張は、そのすべてを切り捨てた。

店内は冷房が強く効き、照明は明るい。
床は清掃が行き届き、スタッフは制服を着てテキパキ動く。
注文も支払いも、迷う余地がない。

ここで払っている追加料金は、
料理そのものというより、
快適さと安心感の対価に近い。

汗をかかずに、熱々の魯肉飯を食べられる。
それだけで、一定の需要が生まれる。


唇が張り付く「コラーゲン」

髭須張の魯肉飯は、見た目からして少し違う。

一般的なそぼろ状の魯肉ではなく、
皮付きの豚バラ肉を短冊状に刻んでいる。
脂身と皮の比率が高い。

一口食べると、
脂が溶け、皮が舌に吸い付くような感覚が残る。
食後、唇が少しペタペタする。

台湾で「黏嘴(ニェンズイ)」と呼ばれるこの感じは、
ゼラチン質がしっかり抽出されている証拠だ。

チェーン店でありながら、
味のブレはほとんどない。
これは偶然ではなく、
セントラルキッチンで管理された「科学的な煮込み」の結果だ。


実は「野菜」が旨い

多くの人は魯肉飯だけを頼む。
だが、この店の完成度を決めているのは、むしろ脇役だ。

燙青菜(茹で野菜)は、
ラードとニンニクで軽く和えられ、雑味がない。

苦瓜排骨湯のようなスープも、
脂の強い肉飯をきちんと受け止める設計になっている。

魯肉飯+野菜+スープ。
この組み合わせで初めて、
「一食」としてのバランスが完成する。

屋台ではなく、
定食屋としての完成度が高い。


髭の親父と、日本への距離感

看板に描かれた髭のおじさんは、
創業者・張炎泉氏が忙しすぎて髭を剃る暇がなかったことに由来する。

髭須張は、実は日本との縁も深い。
石川県などでフランチャイズ展開を行い、
味付けもやや甘辛く、日本人に馴染みやすい。

結果として、
台湾旅行者にとって「最も失敗しにくい魯肉飯」になった。

尖りはない。
だが、外さない。


入門にして、到達点

旅慣れてくると、
人はよりローカルで、より不便な店を探したくなる。

それでも、
家族と一緒の時や、
絶対に外したくない昼食では、
髭須張に戻ってくる人が多い。

ここは入門編であり、
同時に一つの到達点でもある。

屋台の味を、
世界基準のサービス業に引き上げた。

髭須張は、
台湾の食文化が持つ「翻訳能力」を示す、
静かに巨大な存在だ。


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