―― 台湾の食を支える基盤食材の物流 ――
台湾の食卓において、キャベツ(高麗菜)は副菜ではない。
調味以前の、基盤に近い存在である。
餃子、肉まん、小籠包。
街にあふれる粉ものの多くは、肉よりも先にキャベツに依存している。
刻まれ、蒸され、混ぜられ、甘みと水分を与える。
これらは嗜好品ではない。
日常の構成要素であり、キャベツが欠ければ成立しない。
需要は常に高く、保存もきく。
そのため価格の変動は早く、目につく。
台湾では、キャベツは野菜であると同時に、状況を映す指標でもある。
山地を使った垂直の物流
台湾は亜熱帯に属する。
平地の夏は暑く、キャベツには向かない。
その代わりに使われるのが、高さである。
標高二千メートル級の山地。
梨山や南投の奥地では、気温が下がり、キャベツが育つ。
産地は高く、消費地は低い。
この落差を使った供給が、台湾の基本構造である。
ただし道は細い。
山道は曲がり、崖に沿い、余裕がない。
キャベツは、物理的に脆いルートを通って都市に入る。
台風と価格の跳ね上がり
台風が来ると、この構造が露わになる。
雨が続き、斜面が崩れる。
道が塞がれる。
山の上に収穫物があっても、意味を持たなくなる。
市場に届かなければ、存在しないのと同じである。
数日で価格が跳ねる。
一玉が数十元から数百元へ変わる。
家庭の食費に響く。
同時に、餃子屋や弁当屋の原価を直撃する。
キャベツは基幹部品であり、止まれば全体が止まる。
政府による緩衝施策
この社会不安にもつながる事態を想定し、
行政は準備をしている。
安い時期に買われたキャベツは、冷凍され、保管される。
市場が荒れ始めると、それが放出される。
国内が追いつかなければ、輸入を増やす。
近隣地域から、短期で穴を埋める。
市場に並ぶキャベツの一部は、
畑ではなく、倉庫の時間を経ている。
それは味の話ではない。
都市を落ち着かせるための仕組みである。
一玉に残る記録
台風が去り、山道が復旧する。
数週間後、キャベツの値段は再び数十元に戻る。
その変化は自然現象ではない。
山での収穫、夜明け前の積み込み、崩れた道の復旧、
倉庫で眠っていた備蓄の放出、輸入を判断した行政。
それぞれが時間差で働き、
ようやく一玉が市場の台に戻る。
店主が「やっと安くなった」と言うとき、
その言葉の背後には、
見えない労力と制度が折り重なっている。
キャベツは軽い。
だが、それをここまで運ぶために使われている力は軽くない。


