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台湾のマンゴーとライチの物流についての記録

初夏の台湾。
市場は赤い果実で満ちる。

マンゴーは、五月から八月まで棚の中央を占拠する。
長く、安定して、王のように居座る。

ライチは違う。
五月下旬、ほんの二、三週間だけ現れ、
気づけば姿を消す。

同じ南国の果実でありながら、
なぜ一方は季節の主役となり、
もう一方は幻と呼ばれるのか。

答えは味ではない。
物流にある。

マンゴーは太陽をエネルギーに変える果実であり、
ライチは水分を閉じ込めた時限装置である。
寿命の差は、そこから始まる。


熱に耐える王の論理

マンゴーは暑さを恐れない。
強い日差しの中で育ち、袋をかけられ、
完熟するまで木に留まる。

在欉紅と呼ばれる状態だ。
落とさず、熟す。
重力に逆らわず、時間を味方につける。

輸出に際して、マンゴーは検疫という壁にぶつかる。
ミバエ対策だ。

それを越えるのが蒸熱処理。
四十六度を超える蒸気を数時間浴びせる。
多くの果実は耐えられない。
だがマンゴーは耐える。

果肉は崩れず、香りも残る。
人工的な高熱というストレスを受けても、
商品価値を失わない。

マンゴーは工業化に適応した果実である。
熱に耐え、箱に詰められ、
海を渡る。

日本のスーパーに並ぶ理由は、
その強度にある。


風に触れたら終わる逃亡者

ライチは逆だ。
枝を離れた瞬間から、時計が動き出す。

一日で色が変わり、
二日で香りが変わり、
三日で味が変わる。

殻は硬そうに見える。
だが、気孔だらけで乾燥に弱い。
呼吸は止まらず、酸化が進む。

黒変は劣化の合図だ。
見た目が変わる前に、価値が落ちる。

対策は一つしかない。
冷やすこと。

収穫直後、芯まで冷やす。
予冷と氷水。
代謝を無理やり止める。

蒸熱のような悠長な工程は挟めない。
ライチの物流は、
死との徒競走である。

だから、生の台湾ライチが海外に届くとき、
そこには奇跡に近いコストがかかっている。


皮が語る戦略

皮を見ると、戦略の差がはっきりする。

マンゴーの皮は、しなやかで丈夫だ。
中身を守り、
熟すと赤くなり、
見つけてもらうための信号になる。

食べられる前提で、進化している。

ライチの皮は鎧に見える。
だが、衝撃にも乾燥にも弱い。
守っているようで、機能していない。

長距離移動は想定外。
その場で種を落とすための設計だ。

人間は、この欠陥を技術で補う。
冷却、包装、速度。
不自然な力で、時間を引き延ばす。


太陽の覇者と時間の逃亡者

マンゴーを食べるとき、
摂取しているのは太陽の熱量だ。

ライチを食べるとき、
口にしているのは湿度と時間である。

スーパーに並ぶ加工品を見れば、
その勝敗は明らかだ。
マンゴー味は多く、
ライチ味は少ない。

理由は好みではない。
加工と輸送への耐性が、
味覚のシェアを決めている。

太陽の覇者は、
長く生きる。

時間の逃亡者は、
短く輝く。


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