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台湾のコーヒー栽培についての記録

台北のカフェでメニューを開くと、違和感に出会う。
パナマ・ゲイシャやブルーマウンテンの隣に、台湾産コーヒーが並び、同等かそれ以上の価格が付いている。

一杯二千円、時に三千円。
台湾といえば茶の島だという先入観が、ここで裏切られる。

なぜ、この価格が成立するのか。
理由は希少だからでは足りない。
台湾が選んだのが、大量生産向きのロブスタではなく、最初から高級アラビカだけに賭ける道だったからだ。


日本が遺したティピカの血

台湾コーヒーの物語は、日本統治時代に本格化する。
当時、日本人は台湾の山地に可能性を見出し、アラビカ種、とりわけティピカを植えた。

天皇への献上品とされ、「東洋一」と称された時代があった。
だが戦後、産業としてのコーヒーは急速に衰退する。

それでも木は残った。
山奥に放置され、誰にも収穫されず、それでも生き延びた。

現在の台湾コーヒーの多くは、このときの系譜を引く。
原種に近いアラビカの血を持つ木、
あるいは、その土壌で育て直されたゲイシャのような品種。

ここに、雑味を許す余地はない。


全量アラビカという選択

コーヒーには大きく二つの系統がある。
病害に強く安価なロブスタ。
繊細で香り高いアラビカ。

台湾の生産は、ほぼ例外なくアラビカだ。
理由は明確である。

亜熱帯の北限に近い気候。
急峻な山岳地形。
ここでロブスタを作っても、ベトナムやブラジルのコストには勝てない。

ならば、最初から最高品質だけを作る。
テーブルワインを捨て、特級畑に賭ける。
台湾のコーヒーは、そうした極端な前提の上に立っている。


手摘みが生む赤い宝石

生産現場は険しい。
機械は入らず、斜面に人が立つ。

台湾の人件費は高い。
中南米やアフリカの産地と比べれば、圧倒的に不利だ。

それでも、完熟した赤い実だけを、一粒ずつ手で摘む。
未熟豆は混ぜない。

この非効率が、価値になる。
クリアで、果実の輪郭がはっきりした風味。
それは偶然ではなく、労働の積み重ねだ。

台湾コーヒーが高いのは、観光地価格ではない。
先進国の賃金水準で、労働集約的農業を続けるという矛盾を、品質で押し返した結果である。


歴史の続きとしての一杯

日本時代に撒かれたアラビカの種は、長く眠っていた。
そして今、ブティック農業として目を覚ます。

台湾コーヒーを飲むという行為は、
嗜好品を味わうことでは終わらない。

繊細な植物が、歴史と経済の制約を生き延び、
再びカップに姿を現す。

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