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台中・西屯区 蒸心手工小籠湯包についての記録

台中MRTは、まだ街に完全には溶け込んでいないように見える。
文心中清駅を出ても、人の流れははっきりしない。人よりも先に、空間の余白が目に入る。
路線の新しさが、そのまま風景として残っている。

そこから少し歩くと、ローカル食堂が連なる通りに出る。
派手な建物はなく、生活の延長にあるような店が続く。

その一角に、蒸心手工小籠湯包がある。
入口は通りに向かって大きく開いているが、主張は控えめだ。
目に入るのは看板よりも、一定のリズムで立ち上がる蒸気のほうだった。


手包みの風景と、紙箱の前提

外観は目立たない。
大きなロゴも、写真付きのメニューもない。

イートインのスペースはあるが、持ち帰り客が多い。
店内で食べる場合でも、小籠湯包は外帯(持ち帰り)用の紙箱に入って運ばれてくる。
テーブルに置かれるのは、白い紙箱と紙ナプキン。
皿に盛られた料理を前にする感覚とは少し違う。

テーブルのすぐ横では、店員が小籠包の皮を一つずつ包んでいる。
皮を伸ばし、餡を置き、ひだを寄せる。
その動作は止まらず、注文が入るたびに同じリズムで繰り返される。

蒸籠が開閉される音と、作業台に皮が置かれる音が重なる。
調理と提供が、ほぼ同じ空間で進んでいる。

客の多くは地元の人のように見える。
声は低く、動きも急がない。
観光地というより、「昼に来る場所」という印象が強い。


小籠湯包という呼び方

台湾では、本来「小籠湯包」という呼び方のほうが古いらしい。
「小籠包」は、鼎泰豊の広がりとともに定着したとも言われるが、
いまではどちらも普通に通じる。

この店では、名前の通り「小籠湯包」。
頼んだのは鮮肉湯包コーンスープだった。

コーンスープも、紙容器で出てくる。
フタ付きの紙カップで、いわゆる持ち帰り前提の器だ。
店内で飲んでいても、外と同じ形式がそのまま使われている。皿と陶器がつくる「儀式性」との距離

小籠包といえば、
白い陶器の皿、整然と並んだ配置、
取り皿とレンゲが一式で揃う風景を思い浮かべる人も多い。

たとえば 鼎泰豊 では、
料理は必ず「皿」に乗り、
テーブルの上に小さな完結した舞台が用意される。

そこでは、小籠包を食べる行為そのものが、
ひとつの儀式として設計されているように見える。
器の重さ、白さ、温度。
それらが、料理の輪郭を補強している。

一方で、蒸心手工小籠湯包には、その前提がない。
小籠湯包は紙箱に入れられ、
スープも紙容器のまま置かれる。

器が料理を格上げすることも、
食べる側の姿勢を整えることもない。

紙箱は軽く、
食べ終えれば、その役目を終える。
洗われて次の客を待つこともない。

その分、視線は自然と
中身そのものに戻ってくる。

皮の厚み、蒸気の量、
一口目の温度。
評価の基準は、皿の外側には広がらない。

ここでは、小籠湯包は
「鑑賞する対象」ではなく、
あくまでその場で消費される熱量として扱われている。


小籠湯包の中身と温度

紙箱を開けると、蒸気が一気に逃げる。
中には、ぎっしりと並んだ小籠湯包。
見た目は整いすぎておらず、手包みの跡がそのまま残っている。

最近よく見かける「肉汁タプタプ系」の系譜にあるが、
ここの小籠湯包は、少し様子が違う。

たしかに肉汁は多い。
だが、重さは感じにくい。

皮は薄すぎず、破れやすくもない。
噛んだ瞬間に汁が出るが、口の中に溜まり続ける感じはない。

一口目で広がるが、後に引かない。
食べ進めても、途中でペースが落ちにくい。

量で押すというより、
温度とバランスで成立しているように見える。


コーンスープという位置づけ

コーンスープは、濃すぎない。
粒感は控えめで、とろみも軽い。

小籠湯包の合間に飲むと、口の中の温度が一度リセットされる。
主役になろうとはしていないが、
この店では必要な役割をきちんと果たしている。

紙容器で出てくることで、
スープも「料理」というより「補助」に近い存在に見える。


水湳市場と、その周辺

店の近くには、水湳市場がある。
観光地化された市場ではなく、
いまも地域の生活に寄り添っている市場だ。

野菜、総菜、肉、魚。
どれも観光向けの顔をしていない。

蒸心手工小籠湯包は、その延長線上にあるような場所にある。
市場だけでもなく、飲食店だけでもなく、
周辺の生活リズムに組み込まれている。


小籠包と、そのあと

肉汁の量に関係なく、ここの小籠湯包はかなり熱い。
噛み方を誤ると、口の中というより、
唇や舌先に当たる。

少し冷ますか、端を小さくかじってからが無難だ。

売り切れたら、そのまま店じまいになる。
夜に行く場合は、少し早めの時間のほうがいい。
思っているより早く閉まっていることがある。

外に出ると、空気はもう普通だった。
通りにはいつもの音が戻り、
店の気配はすぐに薄れていった。

紙箱の感触と、口の中に残った温度だけが、
少しの間、続いていた。


蒸心手工小籠湯包

— 407 台中市西屯區長安路二段125號
— 11:00〜18:30(火曜定休)売り切れ仕舞い
— 台中MRT文心中清駅から徒歩約12分。

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