―― 白玉苦瓜の清涼感 ――
「ゴーヤ」と聞いて、日本人が思い浮かべるのは、
濃い緑色で、表面がゴツゴツした野菜だろう。
しかし台湾のスープに入っている苦瓜は、色が違う。
器の中で目立つのは、半透明の白だ。
正式には「白玉苦瓜」。
長い時間をかけて改良された品種で、
緑のものより肉厚で、水分が多く、苦味が穏やかだ。
煮込まれたその姿は、
野菜というより、脂身や鉱石に近い。
スープの中で、静かに光を反射している。
南方の異物から、正統へ
苦瓜の原産地は、インドやアフリカとされている。
中国に伝わったのは明代、十四世紀ごろだ。
当初は「南方の蛮族の食べ物」と見なされ、
主流の食文化には入り込めなかった。
だが、その独特の苦味と清涼感は、
次第に薬膳の文脈で評価されるようになる。
体の熱を下げ、
余分なものを外に出す。
この性質は、
暑さと湿気に悩まされる台湾では、とりわけ重宝された。
やがて台湾では、
よりスープに適した苦瓜が求められるようになる。
苦味を抑え、
水分を多く含み、
煮込んでも崩れない。
そうして生まれたのが、
白玉苦瓜という、台湾独自の姿だった。

苦味の先にあるもの
苦瓜湯が好まれる理由は、
単純に「苦いから」ではない。
台湾の食文化には、
回甘(ホイガン)という感覚がある。
最初に強い刺激があり、
その後に、じわりと甘さが戻ってくる。
苦瓜湯も同じだ。
口に含んだ瞬間は、確かに苦い。
だが飲み込んだ後、
喉の奥に、かすかな甘みが残る。
この時間差こそが、
人を何度もこのスープに戻らせる。
二つの定番
台湾で最も一般的なのは、
苦瓜排骨湯だ。
豚のあばら肉から出る脂と旨味が、
苦瓜の苦味を包み込む。
脂は苦味を和らげ、
苦味は脂を切る。
どちらか一方だけでは成立しない、
均衡の取れた関係だ。
もう一つ、
少し踏み込んだ定番がある。
苦瓜鳳梨鶏湯だ。
苦瓜、鶏肉、そして蔭鳳梨。
塩漬け・発酵させたパイナップルを使う。
甘さではなく、
酸味と塩気を持った果実が、
苦味と交差する。
発酵由来の複雑な旨味が加わり、
スープは一段、深くなる。

注文するということ
台湾の子どもたちは、
このスープを好まない。
「なぜ大人は、
こんな苦いものを飲むのか」
そう言われることも多い。
だが、ある時点から、
この苦味が必要になる。
疲れた日。
体が重いと感じる時。
何かを洗い流したい時。
苦瓜湯を自分から注文した時、
それは嗜好の変化というより、
身体の要求に近い。





