―― ロマンチックな人工湖に隠された都市の機能 ――

昼間、愛河之心の縁に腰を下ろす。
木陰があり、川面は静かで、散歩の途中に立ち止まる人も多い。
特別な観光地というより、近所の公園に近い空気がある。
夜になると様子が変わる。
博愛路と同盟路の交差点付近で、S字型の橋がライトアップされる。
水面に映る光が揺れ、カップルが歩き、写真を撮る人が集まる。
ここは夜はきれいだ。
だが同時に、なぜこの場所に、この形の公園が必要だったのかが気になった。
視覚的な「罠」
「愛河之心(Heart of Love River)」という名前は甘い。
SNSに並ぶのは、光る橋と水面の写真ばかりだ。
一見すると、高雄市が観光のために整備した、分かりやすいデートスポットに見える。
だが、水面の美しさが前面に出ている分、その背後にある機能は意識されにくい。
ここは単なる装飾空間ではない。
むしろ、美しさは視線を逸らすための装置のようにも見える。

滞洪池という仕組み
この場所の土木的な正体は、公園ではなく「滞洪池」だ。
滞洪池とは、大雨や台風の際に、一時的に水を溜めるための施設である。
愛河は流路が短く、豪雨時には水位が急激に上昇しやすい。
そのまま下流へ流せば、塩埕区など市街地で氾濫が起きる。
そこで、中流域で水を受け止める必要があった。
川幅を意図的に広げ、水を一時的に貯める「巨大なバケツ」を作る。
平常時は水位を下げ、非常時には水位を上げる。
この調整を前提に設計されたのが、愛河之心である。
カーブの意味
湖岸は滑らかな曲線を描いている。
装飾的に見えるが、これは水流を制御するための形でもある。
直線では水が一気に流れ、負荷が集中する。
曲線にすることで流速を落とし、水を溜めやすくする。
橋や護岸は、景観と構造を同時に成立させるための折衷案だ。
デザインと防災が分離されていない。

東湖と西湖の役割
愛河之心は、橋を境に東湖と西湖に分かれている。
東湖は生態池と呼ばれる。
水生植物や魚が入り、自然の浄化作用を利用する区域だ。
かつてコンクリートで固められていた愛河には存在しなかった機能である。
西湖は回船池として使われる。
遊覧船が方向転換する場所であり、水を放流する際の調整にも関わる。
この二つが組み合わさることで、水を溜め、浄化し、流すという循環が成立する。
コンクリートから湿地へ
この場所は以前、単なる通過点だった。
垂直な護岸に囲まれ、生活の場ではなかった。
2006年以降の整備は、高雄の治水思想の転換を示している。
水を早く排出するのではなく、水と共存する方向へ舵を切った。
投入された予算は、観光よりも防災に近い性質を持つ。
見た目は公園だが、目的は都市機能の更新だった。
夜のベンチで考える
夜風に吹かれながら座る人々は、
自分たちが巨大な滞洪装置の上にいるとは意識していない。
それでいいのだと思う。
防災インフラは、存在を忘れられているときほど機能している。
「愛河之心」という名前は少し気恥ずかしい。
だが、水を溜め、浄化し、守る仕組みを考えれば、
都市の循環を支える中枢として、この比喩は完全に的外れとも言えない。
Key Observation:
愛河之心は、景観をまとった公園ではなく、都市が水と共存するために設計された静かな防災装置である。




