―― 観光地の中心にある、「食堂」 ――
鼎泰豊から、ほんの数分。
人の流れに沿って歩いていくと、
そこには観光地らしくない入口がある。
ガラスではない。
照明も綺麗ではない。
ただ、作業場の匂いが外までこぼれている。
永康街の一等地にありながら、
この店は頑固に「食堂」であり続けている。
それが、好公道金雞園だった。
1階という風景
ドアを開けると、まず一階を通らされる。
そこはもう、厨房というより作業場だった。
蒸籠が積まれ、
酥餅(スーピン)が雑然と並び、
粉をまぶした手がひっきりなしに動いている。
鼎泰豊のように
見せるために整えられた厨房ではない。
ここにあるのは、
生活の延長としての労働だけだった。
永康街の中の「公道」
正直に言うと、値段は上がっている。
10年ほど前は90元だった小籠包が、
気づけば160元前後になった。
でもこの場所を見渡せば、
その数字はそこまで乱暴ではない。
すぐ近くの鼎泰豊は、250元を超える。
観光客向けの店が並ぶこの通りで、
それでもなお「食堂価格」を保っている。
店の名前にある「好公道」。
公平である、正当である、という意味らしい。
たぶんこの店は、
その言葉をまだあきらめていない。
厚皮という意志
ここの小籠包は、すこし厚い。
鼎泰豊のような
透けるほどの薄皮ではない。
箸で持ち上げても、簡単には破れない。
皮にちゃんと弾力があり、
「小麦を食べている感覚」が残る。
向かいの蒸籠からは湯気が常に立ち上り、
蒸気と粉の匂いが入り混じる。
階段を上るときの、木のきしみ音。
それらが、この店の“今”を運んでくる。
もし鼎泰豊が
「飲む小籠包」だとしたら、
好公道のそれは
「食べる小籠包」だった。
スープは派手に溢れない。
ただ、噛んだときに、じゅっと染み出す。
小籠包の店ではなく、食堂
この店の本体は、
たぶん小籠包ではない。
店頭に並ぶ酥餅、
排骨飯や炒飯、
いかにも台湾の昼ごはんらしい匂い。
どれも主役にならなくていい料理だ。
点心専門店ではなく、
食事をする場所として続いている。
それがここを、
観光地の中で少しだけ異質にしている。
記録としての好公道
鼎泰豊に行けば、
台湾の小籠包の完成形が見える。
好公道に来ると、
その裏側の時間が見える。
きれいではないかもしれない。
合理的でもないかもしれない。
それでも、
この街のリズムにちゃんと残っている。
たぶん私は、
こういう店のほうを
長く覚えている。
住所: 106台北市大安區永康街28-1號
営業時間: 09:00 – 21:00 (水曜定休)
アクセス: MRT東門駅 5番出口から徒歩約5分。永康街のメイン通り沿い。
地図: https://maps.app.goo.gl/vddEyHeWYBuAALpd9
1階は厨房、2階が食堂。小籠包は昔ながらの「厚皮」タイプ。入口に並ぶ中華パイ(酥餅)も名物なので、胃袋に余裕があれば試したい。
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