―― 高雄の朝を代表する濃厚な一杯と半熟鴨蛋の名店 ――
高雄の中心部から少し歩いた場所に、前金肉燥飯がある。
看板は控えめで、飾り気のない店構えだ。
創業は1959年。派手ではないが、長く地元に根づいてきたことが、その佇まいに静かに表れていた。
開店は朝の七時過ぎ。
地元の人は、出勤前に寄っていく。
観光客向けの夜営業ではなく、生活のリズムに寄り添った食堂だとすぐにわかる。
店の前には早い時間から行列ができている。
旅行で来た人より、制服姿の学生や仕事着の大人が多い。
食べ終わればすぐに次の客が入る。落ち着いた朝の騒がしさが続いていた。
南部で完成された肉燥飯
前金の肉燥飯は、南部特有の作り方だ。
皮付きの豚バラ肉を手切りで細かくし、醤油と砂糖で長く煮込む。
肉が崩れきらず、脂の粒が残る。
たれは甘く、こってりしている。
ご飯にかけると、脂身が溶けて重さが出る。
それでもしつこさが残らない。
濃厚さと軽やかさの矛盾を、そのまま成立させている。
パクチーが初めから乗っているのも南部らしい。
香りが甘いたれを引き締め、重さを少しだけ散らす。
苦手なら抜いてもらえるが、この香りが一杯の輪郭を整えているように感じた。
鴨蛋(ヤータン:アヒルの卵)の黄身が作る濃さ
名物は、半熟の鴨蛋だ。
鶏卵よりも大きく、黄身の味が濃い。
箸を入れると、とろりと流れ出し、肉燥の脂と混ざっていく。
南部の肉燥を、さらに濃く仕上げるための小さな装置のようだった。
白飯に落ちていく黄色い筋が、そのまま味の方向性を決めていく。
卵を混ぜると、たれと脂が米の隙間に入り込み、全体がゆっくりと一体になる。
味が濃いのに、雑さはない。
鴨蛋の黄身がその均衡を作っていた。
魚鬆(ユーソン)や小皿で広がる食べ方
肉燥飯に魚鬆を加える客も多い。
魚を細かく乾燥させた“でんぶ”のようなものだ。
ふわっとした甘みが加わり、肉燥とは別の層が生まれる。
滷豆腐やスープを合わせて、朝の定食として食べる人もいた。
派手ではないが、生活の味としてしっかりと完成している。
古さと新しさの間にある店
店内は質素で、古い食堂の雰囲気を残している。
壁は白く、テーブルは使い込まれている。
派手な装飾はない。
ただ、雑然としているわけではない。
整いすぎず、汚れすぎず、生活の空気がちょうどよく漂っていた。
高雄の小吃店は、古さを魅力にする場所も多いが、この店はあくまで淡々としている。
歴史があるのに、老舗の構えを出さない。
開店からの時間がそのまま店内の空気に沈んでいるようだった。
朝の通りに戻る
肉燥飯に鴨蛋を混ぜ、食べ終える。
外へ出ると、日差しが急に強くなる。
バイクの音が続き、湿気が皮膚にまとわりつく。
店の濃さはすぐに街の中に溶け、朝の喧騒だけが残った。
住所: 801高雄市前金區大同二路26號
営業時間: 07:15 – 17:30 (日曜定休)
アクセス: MRT市議会(旧・市議会)駅 3番出口から徒歩約3分。大同二路沿いの老舗。
地図: https://maps.app.goo.gl/UXGL7MzEu8255K5j7
創業60年以上の老舗。ミシュラン・ビブグルマン選出。必食は「肉燥飯」に「半熟鴨蛋(アヒルの卵)」のトッピング。パクチーが乗るのが特徴。
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