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台北・板橋 板橋裕民夜市についての記録

新埔民生駅から住宅街を抜けた先に、裕民夜市がある。
夕方になると通りに灯りがともり、人がじわりと集まってくる。
観光客の姿はほとんど見えなかった。
ここは「日常の夜」がそのまま続く場所だった。


よそ行きの顔をしない夜市

通りを歩いて最初に目に入るのは、仕事帰りのサラリーマンだった。
手にぶら下げたバッグをそのままに、何かをテイクアウトし、
家へ急ぐというより、夕飯を短く済ませるような動きだった。

部屋着のまま買いに来たような主婦や、塾帰りの学生の姿も多い。
観光地で見かけるような「呼び込み」や派手な看板はほとんどない。
屋台は淡々と食事を提供し、客も淡々と受け取る。
その静かな実務的なやり取りが、この夜市の性格を決めていた。

台北市内の夜市のように、賑やかさを演出する必要はないらしい。
ここでは食事が目的であり、夜市はただその場所であるだけだった。


56巷口湯包を生んだ土壌

裕民夜市の一角に、56巷口湯包がある。
スープが爆ぜるように飛び出す小籠包の店だ。
見た目の派手さより、味と量を重視する店で、
地元で長く愛されてきた。

この「実質本位」の空気が、この夜市全体にも共通している。
外観は飾らず、味と量で勝負する店が多い。
この土壌がなければ、56巷口湯包のような店も育たなかったのだと思った。

裕民夜市を歩くと、
“この店が人気なのは当然だ”
という空気さえあった。


蔡家牛排という隠れた晩餐

夜市の奥へ進むと、鉄板の音が聞こえた。
蔡家牛排だった。

台湾夜市ではステーキ店は珍しくない。
だが、この店は量と価格のバランスが際立っていた。
鉄板の上には熱々の肉、
その下には大量の麺が敷かれ、
横には目玉焼きがひとつ乗っている。

付いてくるスープと紅茶は飲み放題で、
まるで「板橋の晩餐」を象徴しているようだった。
夜市という枠を飛び越えたボリュームで、
客は皆、無言で鉄板に向き合っていた。

観光向けの演出や特別な工夫はない。
ただ、腹を満たすための力強さがあった。


狭く、熱気のある通り

裕民夜市の通りは狭い。
両側の屋台がせり出し、通路は一本の細い線になる。
そこを人が行き交い、バイクが割り込んで進む。

ひやりとするほど近い距離をスクーターがすり抜け、
歩く人は自然に道を譲る。
この距離感が、裕民夜市の熱気を作っていた。

歩きながら、店の湯気と人いきれとバイクの排気が混ざる。
それらが層になって、夜市の空気を厚くしていた。


日常へ戻る夜

夜が深まると、屋台の灯りは少しずつ弱くなる。
テイクアウトの客が最後に駆け込み、
その後は住宅街の静けさが通りの熱気を包み込む。

片付ける音が響き、
スクーターのライトがひとつ消えると、
裕民夜市はまた日常へ戻っていく。

特別な夜市ではない。
だが、その特別感のなさこそが、
板橋の夜を形作っていた。


板橋裕民夜市

住所: 220新北市板橋區裕民街

営業時間: 17:00頃 – 24:00頃 (店舗により異なる)

アクセス: MRT新埔民生駅(環状線)または新埔駅(板南線)から徒歩約10分。

地図https://maps.app.goo.gl/4W559zo3qti52dgy8

観光地化されていない、板橋区民の台所。「56巷口湯包」のほか、ステーキや滷味などのガッツリ系屋台が充実している。


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