—— 気候がいちばん良い街なのに、足が向かない理由について ——
台湾をまわる旅行者の足取りには、
ある程度の王道ルートがある。
台北・九份あたりを歩き、
時間に余裕があれば台南や高雄へ足を伸ばす。
その中間にある台中は、地図の上では魅力的な位置なのに、
なぜか旅程から抜け落ちやすい。
不思議だと思いながら、
台中駅から市役所のほうへ歩いてみた。
「観光地としての看板」が少し弱いのかもしれない
台北には士林夜市も龍山寺もあるし、
九份は写真映えの決定版のような場所だ。
南へ行けば、台南の古い街並みや奇妙な寺廟が待っている。
台中にも見どころはあるのだけど、
第一印象で掴むタイプ、ではない。
宮原眼科、審計新村、草悟道……
どれも落ち着いていて雰囲気が良いが、
「まず行くべき場所」として強烈に推される感じではない。
台中の魅力は少し静かすぎるのかもしれない。
街の性格が、旅行より生活に寄っている?
台中は歩いていると、
どの区画にも生活の匂いが濃く残っている。
広い道。
緑の多い交差点。
新旧のマンションがゆったり並び、
路地に入ると小さな食堂や文具店がぽつんとある。
どこも住みやすそうだし、空気も柔らかい。
ただ、こうした住んだら嬉しい街は、
短期旅行の視点だと刺さりにくいのかもしれない。
「目的地として強烈に惹かれる」というより、
「なんとなく長く滞在したくなる」タイプの街だ。
気候が良すぎて特別感が薄い?
台中は台湾でもっとも天気が安定し、
雨が少なく、湿度もほどよい。
実際に歩くとそれがよくわかる。
真夏でも風が抜けやすく、
夕方の空気がほんのり乾いている。
旅行者にとってはありがたい気候なのに、
逆にこのクセのなさが印象を薄くしている気もする。
台北の湿気や高雄の陽気さは、
不便でも旅の記憶になる。
台中の気候は快適すぎて、
良さが目立たない。
台中は「流行発信地」なのに、店は“地元化”してしまう
春水堂、清心福全、宮原眼科、Lousia Coffee……
台湾で名前の知られたブランドには、
台中発祥のものが驚くほど多い。
ただ、どれも全国に広がったあと、
台中でなければ体験できないもの、ではなくなる。
「発祥の地」ではあっても
「ここに来ないと出会えないもの」ではなくなってしまう。
流行の源泉でありながら、
わかりやすい観光資源としては見えにくいのが台中だ。
歩きながら考えると、理由は単純じゃない
台中を素通りする理由をひとつに絞ろうとしても、
どれも決め手に欠ける。
観光地としての強烈さがやや弱い
街の魅力が“生活寄り”で、短期旅行に向かない
気候が快適すぎて特徴が薄い
発祥地なのに台中に来る理由が見えにくい
このあたりがゆるく絡み合って、
結果として旅程の外側に押し出されているのかもしれない。
けれど、草悟道の並木の下を歩いていると、
「旅の目的地としては控えめだが、住むなら台中がいい」
という思いがふっと湧いてくる。
旅行者が素通りするのは、
もしかすると台中が、観光地ではない良さ、を持っているからなのかもしれない。
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