―― 「台湾=マンゴー天国」という刷り込み ――
台湾に来ると、どうしてもマンゴーに意識が向く。
夏のSNSは巨大なマンゴーかき氷だらけで、旅行者はそれを季節の義務のように食べる。
いつしか「台湾人もきっとマンゴーが大好きなんだ」と思い込んでいた。
しかし、それは本当なのだろうか。
疑問を持ったきっかけは、意外にも台湾ではなくタイだった。
タイの「青いマンゴー」と台湾の「情人果」
タイでは、熟したマンゴーを毎日食べるわけではない。
むしろ、よく目にするのは青いマンゴー(未熟果)をポリポリ食べる姿 だ。
酸味と食感が主役で、マンゴーは果実というより野菜に近い扱いだ。
台湾にも同様の文化がある。
それが情人果(チンレングォ)。
青い土マンゴーを薄切りにして砂糖漬けし、凍らせたものだ。
夜市で台湾人がよく食べているのは、実は“完熟マンゴー”ではなく、このカリカリの酸っぱいマンゴーの方だったりする。
台湾人の果物の基準は、甘味よりも食感にある。
この事実に気づくと、「台湾人=完熟マンゴー好き」という図式は少し怪しく見えてくる。
果物屋の主役はマンゴーではない
台湾の果物屋を観察してみるとわかる。
山積みになっているのはマンゴー──ではなく、
グアバ(芭楽)だ。
甘さ控えめで、水分補給に向き、硬くて食べ応えがある。
一年中手に入るため、生活に溶け込んでいる。
ほかにもトマト、レンブ(蓮霧)など、どれも日常食としての立場が強い。
つまり、台湾人が日々食べている果物は、観光客のイメージとは少し違う。
かき氷屋での「日本人認定」
ある日、かき氷屋に入ったときのことだ。
メニューを開く間もなく、店員が食い気味に言った。
「マンゴー?マンゴーでしょ?」
まだ何も言っていないのに、そう聞かれる。
この瞬間、理解した。
台湾人がマンゴーを演技しているのではない。
日本人のマンゴー信仰があまりに強い のだ。
その結果、台湾側の接客が「日本人=マンゴー」の固定観念に最適化されてしまった。
我々が見ているのは、地元文化ではなく、
日本人向けに調整された台湾
なのかもしれない。
季節のイベントとしてのマンゴー
もちろん台湾人もマンゴーは好きだと思う。
だが、その立ち位置は「毎日食べる常備果物」ではなく、「夏の風物詩」に近い。
- 日常の果物 → グアバ、トマト、レンブ
- 季節のイベント → 愛文マンゴー(6〜8月)
マンゴーは、あくまで特別な瞬間を彩る果物だ。
日常ではない。
この感覚は、日本人にとってのスイカや桃に近い。
観光とメディアが生んだ「マンゴー像」
台湾観光の文脈では、マンゴーは圧倒的に主役として扱われる。
- 冰讃(ピンザン)の行列
- 芒果好忙の巨大かき氷
- お土産コーナーのマンゴー菓子
しかし、この消費の中心はほとんど観光客だ。
台湾人の日常とは距離がある。
台湾人はマンゴー好きを演じているわけではなく、
我々がマンゴーしか見ていないだけなのだ。
愛の偏り
台湾には、マンゴー以外にも美味しい果物がいくらでもある。
- グアバ(芭楽)
- 文旦
- レンブ
- 釈迦頭
- ライチ、龍眼
にもかかわらず、日本人は「台湾=マンゴー」に固執する。
そして台湾人は、そんな我々に優しく合わせてくれる。
かき氷屋で「マンゴーでしょ?」と言われるあの瞬間は、
文化のすれ違いではなく、優しい気づかいのように感じる。
マンゴーは確かに美味しい。
でも、次は隣にあるグアバも齧ってみたい。
台湾の本当の果物文化は、案外そちら側に広がっている。
コメント