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台湾の飯糰(ファントゥアン)についての記録

日本のおにぎりとは異なる「密度」

台湾の朝食屋で売られる飯糰は、日本のおにぎりと似た形をしているが、思想がまったく違う。

最大の違いは米だ。
日本のおにぎりが「うるち米」であるのに対し、飯糰は糯米(もち米)を使う。

糯米は粘度が高く、冷めても崩れにくい。
結果として飯糰は、
・途中でほどけない
・片手で食べきれる
・腹持ちが異常に良い

という特性を持つ。
これは嗜好品ではなく、労働者のための携帯食(レーション)として進化してきた食べ物だ。

内包される「食感の多層構造」

飯糰の完成度は、具材の豪華さではなく、内部構造の設計にある。

外殻
熱々の糯米。
白米のほか、近年は紫米(ズーミー/黒米)も一般的だ。紫米はプチプチした食感で、健康志向の客に選ばれる。

背骨
中心に入るのは油條(ヨウティアオ)
ただし鹹豆漿に浸すものとは違い、飯糰用は水分に負けないよう二度揚げされた「老油條」が使われることが多い。ガリガリとした硬さが、全体の骨格になる。

緩衝材
肉鬆(ロウソン)
甘くて軽い肉でんぶが、米と油條の隙間を埋め、油脂と旨味を均一に広げる。

アクセント
菜脯(切り干し大根の漬物)や酸菜。
コリコリした食感と塩気が、重たい糯米を最後まで食べさせるための「逃げ道」を作る。

タオルとビニールの成形技術

飯糰づくりは、朝食屋の職人技が最も可視化される瞬間だ。

工程は驚くほど合理的である。

・濡らした布巾(またはタオル)の上にビニール袋を敷く
・糯米を広げ、具材を一直線に配置
・一気に包み、両端をねじる

これだけで、中身がずれず、熱が逃げない高密度構造体が完成する。

断熱性能は高く、購入後1時間以上経っても中は熱い。
朝の通勤や移動中に食べる前提で設計された、極めて実用的な食べ物だ。

カスタマイズの作法

飯糰は「全部入り」が基本だが、最低限の指定項目がある。

米の種類
白米/紫米。
粘りを重視するなら白米、軽さと食感なら紫米。半々にできる店もある。


デフォルトは滷蛋(煮卵)
店によっては蔥蛋(ネギ入り卵焼き)に変更可能。

辛さ
「加辣」と言えば、辣油や唐辛子を内部に混ぜてくれる。
外からは見えないが、食べ進めるとじわじわ効いてくる。

完全食としての飯糰

飯糰の中には、
炭水化物(糯米)
脂質(油條)
タンパク質(肉鬆・卵)
食物繊維(漬物)

が、すべて圧縮されている。

これは「美味しい朝食」ではなく、
忙しい台湾の朝を成立させるための朝食だ。

豆漿を飲む時間がなくても、
椅子に座らなくても、
この一本があれば午前中は乗り切れる。

■ 参考記事リスト

■ 台湾の朝食屋(網羅的な解説)


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