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台湾・葱油餅 vs 葱抓餅についての記録

台湾の屋台の前に立つと、似た二つの言葉が並んでいることがある。
葱油餅と、葱抓餅。

どちらも小麦粉を練り、ネギを入れ、油で焼いたものだ。
材料はほぼ同じに見える。
それでも、屋台はこの二つを別の名前で呼び分けている。

その理由は、どうやら調理の最後の数十秒にあるようだ。
火を止める直前の、ヘラの動きの違いが、最終的な食感を決めている。

葱油餅は、平らな円盤として仕上がることが多い。
葱抓餅は、くしゃくしゃと立体的に崩される。
この違いは、料理の性格の違いを予告しているようにも見える。


共通する北方の記憶

両者のルーツは同じ場所にあると考えられている。
中国北方の小麦文化だ。

小麦粉を水で練り、油酥と呼ばれるラードと粉を混ぜたペーストを塗る。
それを渦巻き状に巻き、何層ものレイヤーを作る。
ここまでは、葱油餅も葱抓餅も同じ工程をたどる。

この段階では、まだ二つは区別がつかない。
違いは、焼き上げと仕上げの動作で生まれる。


葱油餅という「静」の形式

葱油餅の基本的な動作は、「煎」と「切」だ。
鉄板でじっくり焼かれ、大きな円盤になる。
それが包丁で放射状に切られ、ピザのような形で提供されることが多い。

表面は比較的平らで、落ち着いている。
層は内部で重なり、小麦の密度が保たれている。

噛むと、しっかりとしたコシがあり、
油とネギの風味がゆっくりと立ち上がる。
この形式は、食事としての性格を強く残しているようにも見える。


葱抓餅という「動」の操作

一方、葱抓餅は「抓」という動作を中心にしている。
焼いている途中、あるいは焼き上がりの直前に、
二本のヘラで生地が激しく叩かれ、挟まれ、持ち上げられる。

屋台から聞こえる「カン、カン」という金属音は、
この工程が行われている合図でもある。

この操作によって、層は強制的に引き剥がされ、
その間に空気が入り込む。
完成した姿は、平らではなく、しわの寄った立体になる。

食感は軽く、表面積が増えた分だけサクサクした部分が多い。
ソースや具材も絡みやすくなっている。
この形は、スナックとしての性格に近づいているようにも感じられる。


「天津」という名前の由来

多くの屋台の看板には、「天津葱抓餅」という文字が見られる。
ただし、天津にこの料理が名物として存在するわけではない。

天津には煎餅餜子があるが、
それは葱抓餅とは別の料理だ。

この名前は、本場感を出すためのブランドのようなものかもしれない。
実際の姿は、台湾の屋台文化の中で生まれた
葱油餅の2.0バージョンに近いようにも見える。

歩きながら食べやすくするため、
生地をほぐす技術が加えられた可能性も考えられる。


夜市という環境への適応

なぜこのスタイルが生まれたのか、
明確な記録は残っていない。
ただ、その形状を観察すると、いくつかの理由が浮かび上がる。

これらはいずれも、夜市という環境に適応していく過程で選ばれてきた形とも読める。

一つは、食感の輪郭だ。
空気を入れて層を立たせることで、
サクサクとモチモチの対比が強調される。
これは、立ち止まってすぐに食べる夜市のリズムの中で、
よりはっきりとした刺激を残す方向への志向とも取れる。

もう一つは、トッピングとの関係だ。
卵やチーズ、ハムといった具材は、
平らな生地よりも、くしゃくしゃの層の間に入り込みやすい。
層そのものが、
歩きながら食べるための具材を受け止めるポケットとして機能しているようにも見える。

油酥というペーストが層の間にあるからこそ、
叩いたときにきれいに剥がれる。
この性質が、
屋台の速い手つきと夜市の混雑の中で、
この形を成立させているようにも思われる。


重さと軽さのあいだで

小麦のコシをしっかり感じたいとき、
人は葱油餅を選ぶのかもしれない。

軽やかな食感で小腹を満たしたいとき、
葱抓餅が選ばれることもある。

「抓」という一文字は、
空気を取り込むための技術の記号として読めることもある。
それは、同じ生地が別の性格をまとうための合図のようにも見える。

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