台中・西区 嘉園小上海點心總匯店についての記録

―― 台中の蒸気と、干貝の出汁 ――

中華路一段を歩いていると、ふいに湯気の匂いが鼻をかすめる。
古さの残る外観。派手な看板はない。
ただ、その前に積まれた蒸籠が、この店のすべてを語っている。

蒸籠は飾りではない。
実際に使うために積み上げられ、常に入れ替わっていく。
ここは「注文してから蒸す」のではなく、「客を待たせないために蒸し続ける」店だ。
台中の点心屋が持つ回転の良さが、そのまま視覚化されている。

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干貝小湯包という看板料理

ここの主役は、小籠包ではなく干貝小湯包。
豚肉の餡に干し貝柱の出汁が加わり、香りに厚みがある。
最初のひと口でわかる。肉汁の甘さの奥で、干貝の旨味がすっと抜けていく。

皮は薄すぎない。
持ち上げると重みがあり、レンゲに落とすと少し弾む。
食感がある分、スープと餡の存在感が際立ってくる。
派手さではなく、手作業の積み重ねが作る味という印象だった。

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鮮肉包（肉まん）の力強さ

もう一つの名物が肉まん。
蒸し器の蓋が開くと、白い山が湯気に浮かぶ。

皮はふかふかで、かすかな甘みがある。
餡はぎっしり詰まっていて、噛むほどに肉の旨味が出てくる。
湯包の繊細さとは対照的な、力強い味。
この店では、この二つを並べて注文する客が多い。

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店の空気と、料理の生まれる場所

嘉園小上海は新しい店ではない。
使い込まれた調理台、ぎっしり並んだ粉袋、忙しく動くスタッフ。
1階の奥では、粉を捏ねる姿が見える。
湯気の濃さ、作業音の多さ、客の回転。
どれも「台中の日常の食堂」としての風景だ。

場所は中華路夜市の近く。
観光客が少しだけ少なくなり、地元の生活が前に出てくるエリア。
夕方になると、バイクで次々と客がやって来る。
店の前で蒸籠の蓋が開き、また次の蓋が閉じられる。

特別な演出があるわけではないが

干貝の出汁が効いた湯包。
力強い鮮肉包。
蒸籠の塔が示す回転率。
どれも、この店の「よく働く食堂」の姿そのものだ。

特別な演出はない。
けれど一度食べれば、また来たくなる。

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