―― 板橋の夜が集まる一本道 ――
府中駅から南雅東路へ向かう。
夕方の光が弱まり始めるころ、路地から人が溢れはじめ、
一本道の通りに屋台の灯りが重なっていた。
これが板橋湳雅夜市だった。
板橋でいちばん地元密度の高い夜市
湳雅夜市は、板橋区で最も大きな夜市だと言われる。
しかし、規模の大きさよりも目に入るのは、
観光の影が薄い、という事実だった。
仕事帰りの人、子どもを連れた家族、
買い物袋を提げたまま立ち寄る近所の住民。
歩いているだけで、ここが生活の延長だとわかる。
呼び込みの声も少なく、
屋台はただ料理を作り、客は静かに受け取っていく。
どこにも特別な夜市の顔はなかった。
食べ物の層が厚い
屋台の密度は高く、種類も多い。
麵線、臭豆腐、焼き物、湯包、炒飯、麻油雞。
手軽な揚げ物から、しっかりした一皿まで揃っていた。
麵線の屋台の前では、
トロリとしたスープの匂いが漂っていた。
大腸と牡蠣を組み合わせる店もあり、
その湯気が夜市の空気に混ざり合う。
別の屋台では麻油雞。
冬場は特に人気で、
ごま油の香りが通りの奥まで広がっていた。
鶏の柔らかい肉に、温めるための一椀。
歩きながら、その湯気の暖かさに救われるようだった。
湳雅夜市は、食べ物の派手さではなく、
地元の夜飯を支える種類の豊富さが際立っていた。
湯包と小籠包の屋台の熱気
湳雅夜市を歩くと、小籠包や湯包の屋台がいくつか目につく。
蒸籠のふたを開けると湯気が一気に立ち上がり、
その奥には肉汁の重さを予感させる丸い皮が並んでいる。
人気の屋台では、地元の人が当たり前のように2〜3籠を注文し、
持ち帰り袋に入れて帰っていく姿があった。
観光夜市では見られない、
家の夕飯の一部に組み込まれた小籠包だった。
夜市と雑貨店が重なる、板橋らしい混ざり方
湳雅夜市には、衣料品や日用品を売る店も混ざっている。
揚げ物の匂いと、服を選ぶ客の気配が隣り合わせにいる。
この雑多さが、板橋という街の特徴をよく表していた。
食べ物屋台と生活の店が同じ導線に並ぶことで、
夜市は遊び場ではなく生活の一部になっていた。
通りのどこを歩いても、日常の匂いが抜けなかった。
遅くまで続く、一本道の明かり
湳雅夜市は、夜遅くまで明かりが続く。
屋台によって閉まる時間はまちまちだが、
夜10時を過ぎても人が途切れない場所もある。
遅い時間になると、学生の姿が増え、
仕事帰りの人は歩調がゆっくりになる。
屋台は片付け始めながらも、
最後の客を静かに迎え入れていた。
夜が深くなるほど、
通りの喧騒と静けさの境界があいまいになる。
家路へ戻る人の背中を見送りながら、
湯気と油の匂いだけが通りに薄く残る。
夜が終わる、街が戻る
屋台の照明が落ちると、
南雅東路は一気に普通の道路へ戻っていく。
昼間の静かな街の姿が、夜市の熱気の裏から姿を現す。
湳雅夜市は、特別な観光夜市ではない。
板橋の暮らしがそのまま夜の通りに出てくるような場所。
その素朴さが、逆に強く記憶に残った。
住所: 220新北市板橋區南雅東路87號
営業時間: 17:00 – 24:00 (店舗により異なる)
アクセス: MRT府中駅から徒歩約10分。板橋駅からタクシーでも近い。
地図: https://maps.app.goo.gl/JU7nb5mt4GXoffUt7
板橋最大の夜市。「王記」の麻油鶏と「板橋小籠包」が二大名物。ゲーム屋台も多く、昔ながらの夜市の雰囲気が残る。
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