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台北・松山区 饒河街夜市についての記録

松山区の東側、基隆河に近い一帯は、
古くから“錫口”と呼ばれ、港町として発展してきた。
水運で栄えた時代の面影は今は薄いが、
路地の曲がり方や建物の並びに、
その痕跡がわずかに残っている。

その一角に、
夕方になると一本の通りだけが鮮やかに光りはじめる。
饒河街夜市だ。


慈祐宮と賑わいの起点

夜市の入口は松山慈祐宮の目の前にあり、
夜市の明かりよりも先に、
廟の屋根の装飾が目に入る。

慈祐宮は1750年代に建てられた媽祖廟で、
錫口の人々の信仰の中心だった。

三川門の石獅子、屋根の龍の彫刻、
手の込んだ装飾のひとつひとつに、
清代の工芸が色濃く残る。

廟の前では線香の煙が上がり、
そのすぐ横から夜市が始まっていく。

夜市の入口として廟が立っているという光景は、
台湾では特別珍しいものではない。

ただ、この場所では“歴史の中心点”が
夜市の“賑わいの起点”と完全に重なっていて、
時間の流れがぐっと圧縮されたような感覚がある。


胡椒餅の行列

慈祐宮の門前を正面に見て立つと、
自然と人の流れが一度、滞る。

門のすぐ脇にある
福州世祖胡椒餅の前には、
時間帯を問わず行列ができている。

円筒形の窯の内部には炭火が赤く残り、
生地は内壁に貼り付けられたまま、
重力に逆らうように焼かれていく。

焦げた胡椒と肉の匂いが、
夜市のほかの香りよりも一段強く立ち上がる。

店員の動きは単調で、無駄がない。
貼る、剥がす、包む。
その反復の前で、人は立ち止まり、順番を待つ。

ここを通過すると、
饒河街夜市に入ったのだと、説明されなくても分かる。


通りに重なる夜市の熱

通りに一歩入ると、
胡椒餅の窯の熱気、串焼きの煙、
果物の甘い匂いが重なる。

観光夜市としての側面は強いが、
近隣住民の利用も多い。
観光客と地元の人間の動線が分離されず、
夜の時間帯にそのまま重なっている。

店は通路の両側に連なり、
中央は人の流れで常に埋まっている。
立ち止まる人、流れを縫う人、そのまま抜けていく人が混在する。


川沿いへ抜けると、音が消える

夜市の途中から一本裏へ入ると、
すぐに基隆河に出る。

そこには彩虹橋が架かり、
S字を描く赤い橋が、夜の水面に浮かんでいる。

夜市の喧騒は、
この場所まで来るとほとんど聞こえなくなる。

川風は思ったより涼しく、
人の数も急に減る。

ここがかつて「錫口」と呼ばれ、
港町として機能していた場所だったことを想像するには、
この距離感がちょうどいい。


駅の上に重なる、もう一つの時間

夜市の端まで抜けて松山駅側へ歩いていくと、
周囲の空気がはっきり変わる。

駅舎は近代化され、
ガラス張りの大きな構造が川沿いの光を反射している。

松山駅の上部には
CITYLINKが乗り、
中にはTSUTAYA BOOKSTOREも入っている。

コーヒーを飲みながら、
ガラス越しに下を見下ろすと、
慈祐宮の屋根が視界に入る。

最新の商業施設と、
200年以上続く信仰の場所が、
特別な演出もなく隣り合っている。


三層構造の街

数百年の歴史を持つ廟、
戦後の露店文化を引き継ぐ夜市、
そして21世紀の駅ビル。

この三つが数百メートル以内に収まっていて、
街の層をそのまま歩いて確認できる。

饒河街夜市は、
食べ物の多さよりも、
この時間の重なりが面白い場所だと思う。


饒河街夜市

105台北市松山區饒河街
10:30 – 20:00(無休)火曜定休の店が多い
MRT松山駅 5番出口からすぐ

Google Mapsで見る →

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