―― 台湾の食卓を横断する一匙の用途集 ――
沙茶醬(サーチャージャン)は、それ単体で食べる調味料ではない。
必ず何かに混ざり、火にかかり、油と絡み、
料理の輪郭を一段だけ太くする。
台湾で沙茶醬が使われる料理を並べてみると、
そこにははっきりした傾向がある。
肉・火・即席性。
この三点が揃う場所に、沙茶醬は現れる。
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炒める:沙茶牛肉炒め
最も分かりやすい使われ方が、牛肉との組み合わせだ。
沙茶牛肉、沙茶羊肉。
いずれも強火で一気に炒め、
肉の臭みを香りで押さえ、旨味を前に出す。
沙茶醬は、
醤油ほど主張せず、
豆板醤ほど辛くならない。
代わりに、干し海老とスパイスの層が、
赤身肉の隙間を埋める。
家庭料理でも外食でも、
失敗しにくい組み合わせとして定着している。
煮込む:沙茶火鍋
火鍋における沙茶醬は、
調味料というよりベース素材に近い。
清湯や高湯に溶かし、
そこへ肉や内臓、野菜を沈める。
特に潮州系・汕頭系の火鍋では、
沙茶醬の比重が高い。
香りが油膜となって表面に残り、
最後まで鍋の方向性を支配する。
辛味で押す四川系とは違い、
沙茶火鍋は「厚み」で勝負する。
茹でて添える:沙茶魷魚・沙茶肉片
屋台や小吃店でよく見かけるのが、
茹でたイカや豚肉に沙茶醬を添えるスタイルだ。
この場合、沙茶醬は火にかからない。
素材の温度だけで溶け、
香りだけを上書きする。
調理を省略できる分、
素材の鮮度が問われる。
沙茶醬は、
「誤魔化すため」ではなく、
仕上げの一手として使われている。
炒飯・麺に混ぜる:沙茶炒飯・沙茶麺
炒飯や乾麺に沙茶醬を加えると、
一気に屋台の味になる。
卵と米だけでは単調になりがちな炒飯も、
沙茶醬を一匙入れるだけで、
海鮮系の奥行きが加わる。
これは沙茶醬が、
複数の旨味要素をすでに内包しているからだ。
家庭で「一瞬で台湾味」にするための、
近道として機能している。
つける:沙茶醬+醤油+蒜
台湾では、沙茶醬は単体で使われないことが多い。
醤油、ニンニク、唐辛子と混ぜ、
即席のタレにする。
牛肉湯、火鍋、内臓料理。
どれも素材の味が強く、
タレ側にも密度が求められる。
沙茶醬は、
この「即席ブレンド文化」の中心にある。
なぜこれらの料理なのか
沙茶醬が使われる料理は、
どれもスピードが速い。
炒める、煮る、茹でる、和える。
長時間の熟成や発酵は必要ない。
移民が持ち込んだ調味料が、
都市の屋台文化に適応した結果、
「早く、強く、分かりやすい」料理に集中した。
一匙で味の方向を決め、
それ以上は踏み込まない。
沙茶醬は、
台湾料理の中で
最も都市的な調味料かもしれない。
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