―― 気候と生活習慣が生んだ高密度の店舗網 ――
台北では、数百メートルの範囲に複数のコンビニが並ぶ。
主要ブランドはセブンと全家。
朝も夜も照明が途切れず、通りからすぐに見つかる。
高密度の出店は、台湾の都市構造と気候の影響を強く受けている。
統計からの確認
台湾のコンビニは、2023年時点で一万三千軒を超えている。
人口約一千七百人に一軒という計算になる。
この密度は韓国に次いで世界で二番目に高い。
日本は一軒当たり約二千二百人なので、それよりも明確に密集している。
街を歩くと「多い」と感じるのは、印象ではなく、数字にも裏づけがある。
暑熱環境と冷房空間
台湾は高温多湿の気候が長く続く。
屋外での移動は負荷が大きい。
冷房の効いた小規模空間は、街の利用者にとって重要な休息地点になった。
コンビニの店内には、一定の温度と明るさが保たれている。
この環境価値は、出店拡大の基盤になった。
屋台文化の補完機能
台湾の食文化は屋台が中心だった。
ただし屋台は冷房がなく、座席が少なく、天候の影響を受ける。
深夜や早朝は営業していないことも多い。
この時間帯の空白を、24時間営業のコンビニが埋めた。
軽食、飲料、簡易の食事。
屋台と競合するのではなく、屋台文化の隙間を補った。
小商圏が連続する都市構造
台湾の都市は、小規模商圏が密集している。
住宅と商店が混在し、大規模商業施設が少ない。
街区ごとに人の流れが細かく分かれるため、
徒歩数分圏内で拠点が必要とされる。
コンビニはその粒度と一致した。
外食比率と購買頻度
台湾の外食比率は高い。
家庭内での調理頻度は比較的低く、飲み物や軽食の購入回数が多い。
小型商品の売上が積み重なり、店舗密度の高さを支える。
「ついで買い」が一日の中で複数回発生する。
行政サービスと金融機能
台湾のコンビニは、行政サービスや金融の窓口でもある。
公共料金の支払い、税金の納付、荷物の受け取り。
店舗が生活インフラの末端として機能する。
役所や銀行へ行かずに用事が完結するため、利用頻度が高まる。
災害対応と分散構造
台湾は地震と台風が多い。
停電や物流の遅延も発生しやすい。
小型店舗が分散して存在することで、物資供給のリスクが抑えられる。
災害時のアクセス確保という視点も、店舗網の高密度化を後押しした。
過密に見えて成立するエコノミクス
一見すると、過密出店は採算が取れないように見える。
しかし利用回数が多く、単価の小さな商品が繰り返し売れる。
ホットスナックや茶葉蛋など、粗利の高い商品も多い。
公共料金や荷物受け取りの手数料が安定収益になる。
店舗密度の高さは、競合ではなく収益源として作用する。
街の構造と購買行動が、それを可能にしている。
街を歩くと見えてくる配置
通りを歩くと、看板の間隔がほとんど乱れない。
高温多湿の気候、屋台文化、小商圏の都市構造、外食比率。
複数の条件が積み重なった結果が、この配置になった。
特別な象徴ではないが、台湾の都市生活を理解するうえで欠かせない現象だ。
そこまで考えてから、また通りに出る。
湿気がすぐに肌へ戻る。
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