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台湾の弁当屋の虱目魚肚飯(サバヒー)についての記録

台湾の昼は、積み上げられた弁当箱の壁から始まる。

薄い木や紙の箱。
一本の輪ゴム。
ガラスケースの向こうで、メインと副菜が静かに選別されていく。

迷ったときは、定番を選べばいい。
排骨、雞腿、炕肉。
どれも失敗しない。

だが、価格表の端にある少し高い一行に、ふと目が止まることがある。

虱目魚肚飯。

台湾の弁当屋で、最も贅沢な選択肢だ。


「無刺(ウーツー)」という技術への対価

虱目魚(サバヒー)は、本来とても厄介な魚だ。

細かい骨が全身に張り巡らされ、
その数は200本以上とも言われる。
昔は、食べながら常に神経を張り詰める必要があった。

だが、弁当箱に入っている腹身には、骨が一本もない。

これは偶然ではない。
職人が一本一本、手作業で骨を抜いている。

175元という価格は、魚そのものの値段ではない。
「骨を気にせず噛める状態」にするための人件費が、そのまま載っている。

我々は魚を買っているのではない。
快適な咀嚼を買っている。


黄金色の皮と、白い脂

多くの虱目魚肚は「煎」で仕上げられる。

皮目は、しっかりと油を引いたフライパンで焼かれ、
表面はパリッと黄金色になる。

だが、裏返した瞬間に現れるのは、
驚くほど白い脂肪の層だ。

箸を入れると、皮は軽く音を立て、
その下で脂がゆっくりと溶け始める。

これは、日本の焼き魚のように
「身を味わう」料理ではない。

感覚としては、
脂を味わうに近い。


魚油(ユーヨウ)による白飯のコーティング

焼かれた熱で溶け出した脂は、
重力に従って下へ落ちていく。

豚や鶏の脂と違い、
魚由来の脂はさらさらとして軽い。

それが、白飯を覆う。

醤油の味でも、タレの味でもない。
塩気を帯びた、純粋な魚の脂の甘み。

米は、調味されるのではなく、包まれる

これは非常に原始的な食べ方だ。
だが、同時に、極めて贅沢でもある。


虱目魚肚飯の余白

この弁当を食べている客層は、だいたい決まっている。

急いでいない人。
午後に余白がある人。
ゆっくりと箸を進める年配の客が多い。

揚げ物のような、胃袋を殴る満腹感はない。
だが、身体に良いものを摂取したという
静かな納得感が残る。

虱目魚肚飯は、
弁当箱の中で行われる
最も高価で、最も台湾らしい「脂の祭典」だ。


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