―― 白く柔らかな外見に隠されたもの ――
器が置かれた瞬間、
まず目に入るのは白だ。
魚のすり身を練って作られた団子を、
澄んだスープで煮たものだ。
少し歪な楕円形。
雪だるまのような二段構え。
表面はなめらかで、柔らかそうに見える。
貢丸のような完全な球体ではない。
工業製品の気配も薄い。
だが、この白さには罠がある。
不用意に噛むと、
中から熱い肉汁が噴き出す。
口の中で、小さな事故が起きる。
魚丸湯は、
台湾のスープの中でも
最も警戒が必要な一杯だ。
トロイの木馬としての構造
台北で一般的なのは、
福州魚丸と呼ばれる形式だ。
外側は魚のすり身。
淡白で、空気を含んだ質感。
しかし、その中心には
味の濃い豚肉餡が隠されている。
魚の中に豚を仕込む。
スープを飲んでいるつもりが、
突然、肉料理に切り替わる。
これは、
食卓のトロイの木馬だ。
見た目の印象と、
口の中で起きる出来事が一致しない。

福州から運ばれた味
この形式のルーツは、
名前の通り福州にある。
福建省沿岸で育まれた
魚のすり身文化が原型だ。
伝説では、
魚の骨を嫌った秦の始皇帝のために
肉を叩いてペーストにした、
とも語られる。
真偽はさておき、
重要なのは別の点だ。
台湾に移り住んだ
福州系移民が、
この味をそのまま持ち込んだ。
乾麺と魚丸湯。
この組み合わせは、
台北の生活圏に
静かに定着した。
手作りか、そうでないか
貢丸は、
機械化によって均一になった。
どこで食べても、
同じ丸さと弾力がある。
一方、魚丸は違う。
手作りの店が、
今も残っている。
見分け方は簡単だ。
工場製は、
真ん丸で表面が完璧だ。
手作りは、
少し歪み、
指やスプーンの跡が残る。
食感も異なる。
手作りは空気を含み、
はんぺんやマシュマロに近い。
噛むと消えるような軽さがある。
この儚さこそが、
職人の痕跡だ。

北と南の分岐
南部に行くと、
別の魚丸に出会う。
虱目魚丸。
中に何も入っていない、
純粋な魚の団子だ。
弾力が強く、
味は直線的。
対して、
台北の魚丸は複雑だ。
淡白な外皮と、
内側の脂。
生活者にとっての標準は、
今も福州式である。
乾麺という相棒
魚丸湯は、
単体では完結しない。
隣には、
必ず乾麺がある。
黒酢とラー油をかけただけの、
簡素な麺。
刺激された舌を、
白いスープが洗い流す。
最後に、
団子の中の肉汁で
満足感が戻る。
麺。
スープ。
団子。
この往復が、
台北の昼食の基本形だ。

二面性を抱えた一杯
貢丸が、
歯を押し返す力強さなら。
魚丸は、
包み込む柔らかさと、
秘めた脂だ。
白く、穏やかに見えて、
内側は熱い。
この二面性こそが、
魚丸湯の正体である。




