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台湾食堂の小菜についての記録

台湾のローカル食堂に入ると、まず視界に入ってくるものがある。
入口付近の棚、あるいはガラス扉の冷蔵庫。その中に、ラップのかかった小皿が無数に積み上げられている光景だ。

日本人は一瞬、立ち止まる。
注文していない。値段も書いていない。店員も何も言わない。
これは食べていいのか。勝手に取ったら怒られないのか。

結論から言えば、問題ない。
あれこそが「小菜(シャオツァイ)」だ。台湾の食堂において、小菜は前菜であり、箸休めであり、栄養補給のための副次装備でもある。
メイン料理が来る前に、テーブルを整えるための準備物資、と考えるとわかりやすい。


作法|セルフサービスの鉄則

小菜には、暗黙のルールがある。
それを知らないと不安になるが、知ってしまえば拍子抜けするほど単純だ。

まず、勝手に取る。
席を確保したら、棚や冷蔵庫の前に行き、気になる皿を手に取る。店員に断る必要はない。トレーがあれば使い、なければ手で持って戻る。

次に、タレを足す。
多くの小菜は、すでに下味がついている。ただ、テーブルや棚の近くに置かれた醤油膏や辣椒醤を少し垂らすと、輪郭がはっきりする店も多い。これは好みでいい。

そして、食べる。
基本は冷たいまま。麺が来る前につまんでもいいし、途中で挟んでもいい。食べるタイミングに正解はない。

最後に、会計。
自己申告制の店もあれば、食後に店員が皿の数を数えて伝票に書き込む店もある。いずれにせよ、勝手に取ったからといって咎められることはない。
相場は一皿30〜50元。均一価格の店がほとんどだ。


皮蛋豆腐(ピータンドウフ)

台湾小菜の王者、と言っていい存在だ。
白い豆腐の上に、黒く光るピータンが乗っている。初見では、どう扱えばいいかわからない。

重要なのは、上品に食べないこと。
これは冷奴ではない。スプーンで豆腐とピータンを一気に崩し、醤油膏、鰹節、刻みネギと一体化させる。ピータンの黄身が溶け、全体がクリーム状になる。

味は濃厚で、意外なほど穏やかだ。
ピータン特有の癖は、豆腐と甘い醤油ダレに吸収される。ピータンが苦手だと思っている日本人ほど、ここで評価が反転する。


滷味(ルーウェイ)系

棚の中で、ひときわ地味な茶色をしている一群がある。
それが滷味系小菜だ。醤油と八角で煮込まれた、台湾の日常的な保存食。

豆干は、硬めの押し豆腐。
噛むと、繊維の間から煮汁がにじむ。肉の代替としての役割を担ってきた、実用的なたんぱく源だ。

海帯は昆布。
日本の昆布巻きとは別物で、柔らかさよりも歯ごたえを残してある。コリコリとした食感が、脂っこい主菜の合間に効く。

滷蛋は煮玉子。
半熟ではない。黄身までしっかり火が通り、滷汁の味を内部まで吸っている。主役ではないが、安定感がある。


涼拌小黄瓜

一見すると、最も無害に見える。
叩き割ったキュウリの浅漬け。色も爽やかだ。

だが、口に入れると認識が変わる。
ニンニクの量が多い。遠慮がない。
しかし、この攻撃性こそが価値でもある。牛肉麺や排骨飯の脂を一瞬で切り、口内をリセットする。食欲を再起動するための回復薬だ。


猪頭皮(ジュータオピー)

豚の頭皮や耳を使った小菜。
見た目は地味だが、食感の情報量が多い。

軟骨のコリコリと、皮のプルプルが同時に来る。
味付けはシンプルで、塩気と香りが中心。
ビールが置いてある店なら、これを取らない理由はない。


小皿でテーブルを埋め尽くす

台湾の食事は、単品主義ではない。
麺一杯、飯一つで終わらせるのは、少し寂しい。

小菜を二、三皿並べる。
テーブルに余白がなくなると、食事は完成する。
見た目で選んでいい。失敗しても数百円だ。

冷蔵庫の前で迷ったら、直感に従って皿を取る。
それが台湾食堂における、最も正しい作法かもしれない。


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