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台湾の意麺についての記録

丼の中にあるのは、平たく、少し黄色がかった縮れ麺だ。
日本人なら、多くが同じ感想を持つ。

これ、カップヌードルの麺に似ていないか。

その正体が、台南発祥の「意麺(イーミェン)」である。
屋台でも、食堂でも、乾麺として淡々と出てくるこの麺は、見た目に反して、かなり古い。

意麺は、単なるローカル麺ではない。
保存のために加工された「揚げ麺」の系譜に属し、後に世界へ広がるインスタント麺文化の、かなり手前に位置している。


「意」という字の正体

「意麺」という名前は、少し不思議だ。
意味を表す漢字に、麺。料理名としては抽象的すぎる。

由来には諸説あるが、最も語られ、そして台南らしいのが「うめき声説」だ。

意麺は、強いコシ――台湾で言うところの「Q」を出すために、非常に硬い生地を作る。
かつては機械などなく、生地は太い竹の棒の下に置かれ、職人がその上に乗って体重をかけて練った。

その時に漏れる声。
「噫(イー)……」

苦しさと気合が混じったその声が、そのまま麺の名前になったという。

真偽はともかく、意麺が「人の体重と労力」で作られてきた高密度の麺であることは、今も食感に残っている。


なぜ、縮れているのか

意麺のもう一つの特徴は、あの縮れだ。

これは装飾ではない。
縮れによって表面積が増え、台湾の濃い肉燥(豚そぼろダレ)を、効率よく絡め取るための形状だ。

さらに意麺には、乾燥方法の違いがある。

天日で干したもの。
そして、油で揚げて乾燥させたもの。

後者は、いわゆる「鍋焼意麺」に使われる。
揚げることで水分を抜き、保存性を高め、湯で戻す。

この「揚げて保存し、湯で復元する」という発想は、のちにインスタント麺を生む重要な技術になる。
意麺は、台南の屋台で完結しているようで、実は世界史と静かにつながっている。


台南人は「乾」を選ぶ

店に入ると、たいてい聞かれる。
「乾? 湯?」

迷ったら、乾だ。

台南において、意麺はスープの中で泳がせるものではない。
主役は、麺そのものの香りと歯ごたえだ。

卵の風味。
強いQ。
それを確かめるには、タレを絡めるだけの乾麺が一番いい。

スープは別に付いてくる。
先に麺を食べ、最後にスープを飲む。

台南では、それが自然な流れだ。


塩水意麺という名前

意麺の中でも、特に知られているのが「塩水意麺」だ。
台南北部の塩水という町の名を冠している。

特徴は、水を使わず、アヒルの卵を練り込むこと。
これにより、独特のコクと、さらに強い弾力が生まれる。

現地では今でも、天日干しされた麺が笊に並ぶ光景が残っている。
観光用に誇張されることもなく、ただ作業として続いている。


シンプルという完成形

一杯の意麺は、驚くほど簡素だ。

茹でた麺。
少量の肉燥。
薄切りの茹で肉。
刻んだニンニク。

それだけ。

具材で押し切らない。
味で誤魔化さない。

縮れた麺の一本一本に、食感と香りを詰め込む。
意麺は、台南人が「Q」にどれだけ執着してきたかを、最短距離で示す料理だ。

インスタント麺のような見た目をしているが、
そこにあるのは、保存の知恵と、身体労働の記憶。

台南に行ったら、まずこの縮れを啜る。
それで、この町の味覚の芯が、だいたい分かる。


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