台北・大同区 宜蘭正常鮮肉小籠湯包についての記録

── 台北にある宜蘭の飛び地 ──

大同区の、少し奥まった通り。
観光客の導線からは、少し外れている。

看板は大きくない。
外観も、目立つようには作られていない。

「たまたま見つけた店」
そういう出会い方をしたほうがしっくりくる場所だ。

あとで知ったが、ここは宜蘭の有名店
「正常鮮肉小籠湯包」の大同店だった。

わざわざ宜蘭まで行かなくても、
台北で同じ系譜の小籠包が食べられる。

この距離感が、この店の一番の価値かもしれない。

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ネギが主役の小籠包

この店の小籠包は、
台北でよく見るタイプとは、少し違う。

皮越しに、緑が透ける。
中に入っているのは、肉よりもネギの存在感だ。

宜蘭名物の三星葱。

一般的な小籠包が「肉汁」を売りにしているのに対して、
こちらは「ネギの香り」で勝負している。

皮の端から、刻まれたネギの緑が透けて見える。
ひと口で脂よりも先に、ネギの香りが立つ小籠包だった。

口に入れると、
最初に来るのは肉の旨みではなく、
ネギの甘さと香り。

スープも重くない。
脂っこさより、軽さが先に残る。

どちらかというと、
ネギを含んだスープを飲んでいる感覚に近い。

何個でもいけそうに見えて、
実際に何個でもいけてしまう危うさがある。

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「正常」と「正好」という兄弟

宜蘭では、この系譜の店に二つの名前がある。

「正常」と
「正好」。

もともとは兄弟がそれぞれ店を構えた、という話がある。

兄が「正好」、
弟が「正常」。

この台北の店は、
その「弟側」にあたる系列だと言われている。

真偽を断定するつもりはないが、
名前の似通い方も含めて、
どこか台湾らしい話だと思う。

日本で言う直系二郎？、みたいなものだろうか。

枝分かれしながら、
それでも「ネギ小籠包」という思想だけは共有している。

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食堂としての居心地

店内はごく簡素だ。

セルフの甘い紅茶。
タレは自分で調合する。
厨房の奥から、蒸気の音が途切れなく聞こえてくる。

観光向けに整えられているというより、
このあたりで働く人たちの、
日常の食堂に近い。

排骨飯をテイクアウトする人。
弁当を受け取って、すぐに去っていく人。

観光地の店とは少し違う時間が流れている。

小籠包を食べている間も、
隣の席では、昼休みの会話が続いていた。

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台北にある宜蘭

宜蘭に行けば、もっと「本店らしい空気」があるのかもしれない。
けれど、この大同店には、

台北の日常の中に溶け込んだ
「宜蘭の気配」

がある。

派手ではない。
話題性も強くはない。

でも、ここでしか食べられない味が、きちんと存在している。

この街の中にある、小さな飛び地として。

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