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台湾の弁当屋の燒雞腿飯についての記録

台湾の昼は、積み上げられた弁当箱の壁から始まる。

余分な水分と油を受け止めるための、薄い紙や木の箱。
蓋を留めるのは、テープではなく一本の輪ゴム。

列に並び、主菜を一つ告げ、ガラスケース越しに副菜を三つ選ぶ。
言葉が通じなくても、指差しだけで成立するこの流れは、台湾全土でほぼ共通だ。

迷ったら、まずは定番を選ぶ。
この小さな箱の中には、台湾の食文化の「標準」が詰まっている。

排骨飯がその物差しだとすれば、
炸雞腿飯は逸脱だった。

そして、燒雞腿飯は、また別の方向に進んだ選択肢だ。


琥珀色の「照り」

箱を開けた瞬間、まず目に入るのは色だ。

揚げ物の乾いた茶色ではない。
焼き目が作る、深い琥珀色。

何度もタレを塗り重ねながら焼かれた皮は、
表面にわずかな潤いを残し、照明を受けて艶やかに光っている。

浮き出た脂。
ところどころに残る焦げ。

炸の即物的な迫力とは違う、
燒にはどこか「色気」に近い視覚的魅力がある。


「蜜汁」という魔法のタレ

燒雞腿飯の核は、肉ではなくタレにある。

多くの店では、蜜汁(ミージー)と呼ばれる甘じょっぱいタレに、
鶏腿をじっくり漬け込み、焼き上げる。

醤油の塩気。
砂糖の甘み。
五香粉や八角が、ほんのりと奥に残る。

オーブンや炭火の熱で糖分が焦げ、
表面にはキャラメリゼされた香ばしさが生まれる。

揚げ物の油が白飯を濡らすのとは違い、
ここで落ちてくるのは「甘いタレ」だ。

このタレが染みた白飯は、
主菜がなくても成立してしまいそうな強さを持っている。


抵抗のない「柔らかさ」

食感の方向性も、炸とは正反対だ。

炸雞腿飯が、
歯を押し返す弾力と、皮の硬度を楽しむ料理だとすれば、

燒雞腿飯は、
歯が沈み込む感覚を楽しむ料理だ。

皮と肉が分離せず、
一体となって口の中でほどけていく。

じっくり火を入れることで、
コラーゲンがゼラチン質に変わり、
箸で崩せるほど柔らかくなっている店も少なくない。

噛み締める、というより、
受け止める、という感覚に近い。


蜜汁の甘い余韻

骨を持って齧り付くと、
指先がタレで少しベタつく。

その甘い匂いも、
この弁当の一部だと思えてくる。

食後、胃に残る重たさは少ない。
それでも、
口の中には蜜汁の余韻が長く残る。


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