―― 薄暗いアーケードとバイクの川と100年の趣 ――
南国の強い日差しから逃れるように、
黒ずんだアーケードの下へと潜り込む。
視界が一段落ち、気温が少し下がる。
三民市場だ。
高い天井。
飴色に燻された柱。
絶え間なく続く、スクーターの低いエンジン音。
ここは市場というより、
街を貫くひとつの長いトンネルに近い。
バイクは川のように流れる
狭い通路を、バイクが行き交う。
だが、混乱はない。
歩行者を押しのけることもなく、
水が石を避けるように、自然にすり抜けていく。
サンダルの足で地面を蹴り、
少し進んでは止まり、
そのまま野菜を受け取る。
降りずに買い物を済ませる所作は、
怠惰というより、この暑い街で生きるための技に見える。
煤けた壁、色あせた看板。
決してきれいではない。
だが、どれもが使い込まれ、
生活の道具として磨かれた艶を帯びている。
昭和の残像と、台湾の現在
ふと見上げると、
木組みのトラス構造が目に入る。
日本統治時代から続くこの場所は、
何度も補修されながら、
今も市場として使われている。
乾物屋から漂う漢方の匂い。
揚げ菓子の甘い油の匂い。
湿ったコンクリートの匂い。
それらが混ざり合い、
どこか懐かしい夕方の空気をつくっている。
昭和の記憶が、
そのまま時間の中に留め置かれているようだ。
老周冷飲店で流れを止める
市場の中央にある老周冷飲店で、椅子に腰を下ろす。
ここだけが、流れる川の中の中洲のように静かだ。
焼きたての燒麻糬に、
ピーナッツ粉がたっぷりとまぶされている。
熱々の餅は素朴で、
余計な甘さがない。
氷を砕く音を聞きながら、
目の前を通り過ぎる人の顔を眺める。
夕飯の支度に向かう人。
仕事帰りの人。
観光客向けの表情は、ここにはない。
あるのは、高雄の普段の顔だ。
トンネルを抜けて
食べ終え、再び外へ歩き出す。
強い日差しが、一気に戻ってくる。
背後ではまだ、
バイクの音と市場のざわめきが続いている。
三民市場は、
何か特別なものを探しに来る場所ではないのかもしれない。
ただ、この街の変わらない営みに、
しばらく身を置くための場所。
住所: 807高雄市三民區中華三路285號
営業時間: 朝市 8:00頃~ / 夜市 16:00頃~24:00頃
アクセス: 台鉄「三塊厝(サンクァイツオ)」駅から徒歩約5分。または高雄駅から徒歩約15分。有名な乾物街「三鳳中街」のすぐ近く。
地図: https://maps.app.goo.gl/a5411DC2XE9KqLhS7
「バイクに乗ったまま買い物をする」という高雄スタイルが見られる象徴的な市場。アーケード内をスクーターが走り抜けるため、歩行時は注意が必要。「老周冷飲店」のかき氷や焼き餅、周辺の鴨肉飯が名物。


