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台湾の猪血湯についての記録

運ばれてきた瞬間、
一度、目が止まる。

透明なスープの中に沈む、
赤黒い直方体。

現代アートの展示か、
何かの儀式の一部のようにも見える。

英語で書けば
Pig’s Blood Cake Soup。
説明は正確だが、
少し身構えさせる。

薬味は決まっている。
刻んだニラと、酸菜。
見た目は強いが、構成は単純だ。


予想が外れる瞬間

恐る恐る、口に運ぶ。

鉄の味や、生臭さを
想像していた人ほど、
拍子抜けする。

匂いはない。
味も淡白だ。

食感は、
豆腐より少し締まり、
ゼリーよりは歯切れがいい。

噛むと、
軽く抵抗して、
すっと切れる。

血という言葉から連想する
重さは、ここにはない。


海の向こうから来た料理

この料理の起源は、
台湾ではない。

中国南部、
福建や広東に見られる
血を固めた料理が原型だ。

ただし、
目の前の猪血湯は
明らかに台湾の味になっている。

違いを作っているのは、
調味だ。


台湾的な上書き

最大の特徴は、
沙茶醤の存在だ。

魚介とスパイスの効いた、
BBQソースに近い調味料。

淡白な血の塊に、
輪郭を与える。

さらに、
大量のニラと酸菜。

血の匂いを消すため、
というより、
最初からそういう料理として
設計されているように見える。

これは、
大陸由来の料理を
台湾の味覚に合わせて
上書きした結果だ。


機能としてのスープ

なぜ、これを食べるのか。

台湾には、
「清肺」という考え方がある。

肺をきれいにする、
という民間信仰だ。

埃っぽい現場で働く人。
排気ガスの多い街で暮らす人。

猪血湯は、
そうした環境の中で
身体を整えるための
実用的なスープとして
受け入れられてきた。

滋養食というより、
生活の調整役に近い。


隣に置かれるもの

店によっては、
炒米粉が一緒に並ぶ。

乾いたビーフンと、
水分の多いスープ。

互いに主張しすぎず、
邪魔もしない。

黄金の組み合わせ、
というほどではないが、
相性はいい。


見た目で判断しない

猪血湯は、
挑戦的な見た目をしている。

だが、
中身は驚くほど穏やかだ。

食材を余さず使うこと。
過酷な環境で生きるための工夫。

その延長線上に、
このスープがある。

台湾でしか成立しない、
静かな生活食の一つだ。


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