―― どこかおかしいのか、深く理解しているのか ――

台湾の必勝客(ピザハット)を初めて覗いたとき、
多くの旅行者は同じ反応をする。
「これは、冗談なのか?」
メニューには、見慣れたマルゲリータやペパロニの横に、
明らかに文脈を無視した名前が並ぶ。
タピオカ。
オレオ。
唐揚げ。
餅。
ピザというより、夜市の屋台が誤って円形の箱に入ってしまったような印象だ。
観光客の目から見れば、
台湾のピザハットは「迷走している外資チェーン」に映る。
本場イタリア人が見たら卒倒するだろう、という言葉も簡単に思いつく。
だが、少し視点を変えると、
この「おかしさ」は別の意味を帯び始める。
具体名を挙げると、さらに混乱する
台湾のピザハットの問題は、抽象的な違和感ではない。
具体名が、すでにおかしい。
たとえば、
- 珍珠奶茶披薩(タピオカミルクティーピザ)
甘いミルクティーソースに、黒糖タピオカを散らしたもの。 - OREO 起司披薩(オレオチーズピザ)
溶けたチーズの上に、砕いたオレオを敷き詰める。 - 台式鹽酥雞披薩(台湾風唐揚げピザ)
夜市の定番「鹽酥雞(イェンスージー)」が、そのまま主役として鎮座する。 - 麻糬披薩(餅ピザ/スタッフド系)
チーズの代わり、あるいは耳の中に餅を仕込む構成。
どれも「ピザとは何か」という定義を、正面から無視している。
少なくとも、ヨーロッパ的な文脈ではそう見える。
だが、台湾の味覚文法では破綻していない
ここで重要なのは、
これらが台湾人にとってはそこまで異常ではないという点だ。
台湾の味覚には、いくつかの前提がある。
- 甘いとしょっぱいは、対立しない
- 食感(Q)が味と同等、あるいはそれ以上に重要
- 完成品も、再加工してよい
この前提に立つと、
タピオカやオレオは「ふざけたトッピング」ではなくなる。
タピオカは、
味ではなく噛み応えを追加する部品だ。
オレオは、
甘味菓子ではなく黒く硬い異物、つまり食感のノイズである。
鹽酥雞は言うまでもない。
台湾では、揚げ物は主食と衝突しない。
ピザはここで、
「小麦を味わう料理」ではなく、
異なる食感と油脂を配置するための円盤に変換される。

ピザハットは、台湾文化を誤解していない
むしろ興味深いのは、
このローカライズが非常に一貫していることだ。
- Qを足す
- 甘じょっぱくする
- 見た目で驚かせる
- SNSで拡散される余地を残す
これらはすべて、
台湾の夜市やコンビニ、カフェが長年やってきたことと同じだ。
つまり台湾のピザハットは、
イタリアを裏切っているのではない。
台湾を、正確に翻訳している。

観光客が感じる「なんだこれ」は、正しい
だから、
「なんだこれ」という第一印象は間違っていない。
だがそれは、
台湾文化の表層だけを見たときに必ず通る関門でもある。
柔らかい世界に、あえて硬いものを入れる。
均質な味に、異物を混ぜる。
完成品を、もう一度素材に戻す。
台湾のピザハットは、
その感覚を最も分かりやすく、
最も過激にやっているだけだ。
結び
台湾のピザハットは、確かにおかしい。
だがそれは、混乱の結果ではない。
観光客の常識と、
台湾の日常が、真正面から衝突した結果である。
ピザの箱を開けたとき、
そこにあるのはイタリアではない。
だが、
台湾の輪郭は、驚くほどはっきりしている。





