―― 新竹の風と、黒い斑点 ――

新竹の城隍廟の周辺を歩くと、
屋台や食堂の並び方に、ある種の規則性があることに気づく。
新竹米粉。
そして、その隣に貢丸湯。
観光客向けの「名物セット」として説明されることが多いが、
この二つが並ぶ理由は、単なる語呂合わせや商売上の都合だけではなさそうだ。
どちらも、
新竹という土地の「風」を前提に成立している料理に見える。
風城という機能
新竹は、風の街と呼ばれてきた。
秋から冬にかけて吹く九降風。
乾いていて、強く、止まらない。
洗濯物がよく乾く、という程度の話ではない。
この風は、街全体を一つの乾燥装置のように機能させてきた。
湿度が低く、空気が動き続ける。
食品加工にとって、これほど扱いやすい環境は多くない。
新竹米粉が、この土地で発展した理由も、
米そのものより、この風にあった。
茹でた米粉を干し、
短時間で均一に乾燥させる。
同じことは、
かつての貢丸作りにも当てはまる。
肉を叩く作業は、時間がかかる。
温度が上がれば、脂は溶け、風味は落ちる。
風が強く、気温が低い。
それだけで、作業場の条件は大きく変わる。
伝承の真偽は別として、
新竹の気候が、貢丸作りに都合がよかったことは否定しにくい。
灰色の球体に落ちた、黒
新竹の貢丸には、
もう一つの特徴がある。
香菇貢丸。
椎茸入りの貢丸だ。
透明なスープの中で、
灰色の団子に、黒い斑点が浮かぶ。
装飾ではない。
隠そうともしていない。
この黒は、
意図的に混ぜ込まれたものだ。
なぜ椎茸なのか。
豚肉には、イノシン酸がある。
乾燥椎茸には、グアニル酸がある。
二つが重なると、
旨味は単純に足し算されない。
経験則として、
噛んだときの奥行きが変わることは、
古くから知られていたのだろう。
椎茸もまた、乾燥させることで価値を増す食材だ。
ここでも、風が関与する。
灰色の肉の中に、
黒い点が均一に散る。
視覚的にも、
これは「設計された混入」であることが分かる。
噛んだ瞬間、
豚の脂の甘みの奥から、
椎茸の香りが立ち上がる。
原味の貢丸にはない、
立体感がそこにある。
工場という継承装置
現在、
多くの貢丸は工場で作られている。
新竹には、
海瑞、進益、華品といった専門メーカーがある。
巨大な看板を掲げ、
冷凍庫と搬出口を備えた建物は、
もはや屋台の延長ではない。
だが、
それは断絶ではなく、
継承に近い。
肉を叩くという重労働は、
人の手から機械に移された。
温度管理、攪拌速度、粒子の均一性。
かつて風と経験に委ねられていた部分は、
今では数値に置き換えられている。
台北のスーパーで買う冷凍貢丸も、
裏を見れば、製造所は新竹だ。
この街は、
台湾全土の「Q」を支える供給地になっている。
半導体を作る街が、
その前から精度の高い肉団子を作っていた、
という言い方もできる。
スープの底に残るもの
新竹で貢丸湯を飲むと、
他所より美味しく感じることがある。
だが、それは味の差というより、
「ここが本場だ」という情報が作る錯覚かもしれない。
それでも、
強い風が吹く夕方、
熱いスープと弾力のある団子を口に運ぶと、
この料理が、
なぜここで生まれ、
なぜ台湾全土に広がったのか。
その必然性が、
頭ではなく、腹に落ちる瞬間がある。
貢丸は、
豚肉と、叩く技術と、
そして新竹の風でできている。






