―― MRT の“遅刻”がつくった都市構造 ――
台湾の公共交通は、長いあいだバスに依存していた。
台北の MRT が走り始めたのは1996年。
それまでの40年近く、都市の移動を支えていたのはバスだけだった。
結果として、路線は毛細血管のように張り巡らされている。
家の目の前で乗れて、目的地の目の前で降りられる。
台中では、今も「バスこそ主役」という街のリズムが残っている。
台湾はバイク社会でもある。
バスが不便になった瞬間、乗客は一斉にバイクへ流れてしまう。
バスが都市の背骨として生き残ったのは、利便性を突き詰めた結果だと思う。
運賃が長らく 15 元で据え置かれていたのも象徴的だ。
ビジネスというより、移動の権利を保障する福祉インフラに近い。
バス停にある物理路線図は、ほとんど暗号に近い
台湾のバス停には、円筒形のくるくる回る路線図が置かれている。
始点から終点までの停留所がびっしり並ぶ、あのタイプだ。
情報量は多い。だが、旅行者にはほぼ読めない。
- 図は一直線なのに、実際のルートは複雑に蛇行する
- 一方通行が多く「行き」と「帰り」で道が違う
- 終点で折り返さず、そのままループする循環線も多い
バス停に着いて初めて現実を知る。
物理路線図は「ある」だけで、使えるとは限らない。
結局のところ、Google Map を使うのが正解。
地図と到着予定時刻、乗り換え案内まで整っている。
旅行者はこれだけで十分だと思う。
運転が荒い。効率が走らせている
台湾のバス運転手は、運転が荒いとよく言われる。
急加速、急ブレーキ、レーンチェンジ。
初めて乗ると、体が前後に揺さぶられる。
背景には、かつての歩合制があるとされる。
前のバスを追い越して客を拾う。
そういう競争の記憶が、運転のスタイルに残っているのかもしれない。
それでも、あれは乱暴さではなく、街を回すための効率に近い。
台北の交通量を考えれば、ゆっくり走るほうが危険だと思う。
大きな車体でバイクの群れを押し分けながら進む姿は、
都市の階層を表すようにも見える。
乗り方の作法:ここだけ押さえれば大丈夫
台湾のバスには、ほんの少しだけ「作法」がある。
- バス停では軽く手を挙げて乗る意思を示す
(ただ立っているだけだと通過される) - 降りるときは早めにボタン
- 日本のように、止まってから席を立つ文化ではない
- 高雄は iPASS、台北は EasyCard が主流(相互利用可)
- ルートはアプリで確認。Google Map が正解
運転が速いので、できれば座ったほうが安全だ。
台湾人は立ち乗りに慣れているが、旅行者は足元を取られやすい。
MRT では見えない「生活の密度」
バスに乗ると、その街の体温がわかる。
制服の学生、買い物帰りの家族、
汗だくのまま乗り込む労働者、
市場の袋を膝の上に載せたまま座るおばあさん。
街のすぐ横で暮らしが動いている。
MRT のように地下を滑らかに移動するのとは違う。
生活の「密度」に触れながら進むのが、台湾のバスだ。
車窓から、洗濯物の揺れる集合住宅が見える。
赤い屋根の寺廟が突然現れる。
市場のざわめきが、バスの窓のすぐ脇を抜けていく。
台湾という都市を読み解くなら、バスは最良のレンズだと思う。
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