―― 街を歩きながら、建物の表情を観察する ――
台湾のマンションは重厚に見える。
外壁の厚み、窓の少なさ、影の深さ。
同じ地震帯にある日本と比べても、輪郭がはっきりしている。
この重さにはいくつか理由がある。
外壁に使われる石材
台湾のマンションを見上げると、
外壁に厚い石材が貼られていることが多い。
花崗岩や大理石が使われ、
低層階だけでなく上の階まで重い質感が続く。
小雨が降る日には、
その石肌が光を鈍く返している。
台湾では、
石は変わらない素材として扱われる。
その不変性が、
建物の価値を支えるという考え方が根強い。
石の量が、
そのままマンションの格を示す記号になっている。
断熱と日差しを避ける構造
台湾は日差しが強い。
外壁が厚く、庇が深く、窓が奥まった設計をよく見かける。
外装の“重さ”は、装飾だけでなく、
熱を遮るための実用も含んでいる。
午前の光が強い通りを歩くと、
影の深さが建物ごとの差として目に入る。
日本のマンションは開口部を大きく取り、
明るさを優先する傾向があるが、台湾は逆だ。
壁が主役で、窓はその中に収まっている。
暑さの中で暮らすために生まれた形だ。
宮殿のような装飾
台湾のマンションでは、
入り口が大きく開き、柱が並ぶことがある。
欧風とされるデザインが、
そのまま高級感の記号として残っている。
屋上に丸いドームが載っている建物もある。
街を歩きながら見ていると、
これらは実用というより「建物を立派に見せるための装置」
として機能しているように感じる。
日本ではシンプルさが評価されるが、
台湾は装飾に価値を見いだす傾向が強い。
地震を経験した国の建築
台湾も日本と同じように地震が多い。
しかし、建物の軽量化よりも、
構造内部で衝撃を吸収する方法が重視されてきた。
耐震技術が変化しても、
外観の重厚さはそのまま残った。
日本では落下リスクのある石貼りは敬遠されやすいが、
台湾では象徴として維持されている。
文化の違いが、自然と外観に現れている。
街の雰囲気と調和する質感
石の外壁は、通りの雰囲気とよく馴染む。
スクーターの音が続き、
路地に入ると急に静かになる台湾の街では、
建物そのものが背景のように立っている。
その背景が軽やかではなく、
重い質感で構成されている。
だからこそ街全体に落ち着きが生まれ、
歩いていても視界が散らばらない。
マンションの重厚さは、
街の気配ともつながっている。
そして、建物の前を通り過ぎる
外壁の石に触れると、
昼の熱をわずかに残している。
装飾の多い入口を横目に、通りを抜ける。
ただの住居だが、
街角の景色を形づくる大きな要素になっていると感じる。
その印象を確かめながら、次の角に進む。
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